伝染性膿痂疹(とびひ)の症状・診断・治療
伝染性膿痂疹(とびひ)とは?
- 伝染性膿痂疹は、主に小児に見られる皮膚感染症です。この病気は、黄色ブドウ球菌や溶連菌によって引き起こされます。
- 感染は皮膚の小さな傷口から入り、特徴的な赤い発疹、水疱(小さな水ぶくれ)、そして痂皮(かさぶた)を形成します。
- 伝染性膿痂疹には大きく分けて2つのタイプがあります
- 赤みや痒みを伴い水疱を形成する・・・水疱性膿痂疹
- 厚いかさぶた(痂皮)を形成する・・・痂皮性膿痂疹
- 学校感染症、第三種(その他の感染症)に該当します。患部が露出しないようにきちんとガーゼなどで覆うことが出来れば登園・登校できます。しかし、痒みが強くガーゼの覆いがズレる場合や、広範囲に症状がある場合などは、自宅療養をした方が良いでしょう。
- 治療は塗り薬と、痒み止めや抗生剤などの内服治療になります。適切に治療すれば1週間程度で治癒します。
- 感染を拡大させないように対策をとることが重要になります。患部を清潔にし、手洗いを十分に行いましょう。掻いた際に新たな傷ができないように爪を切りましょう
伝染性膿痂疹は、最初に発症した部位から離れた部位にも症状が広がることから、「とびひ」とも呼ばれます。
原因となる細菌の黄色ブドウ球菌や溶連菌は、健康な人の皮膚に常在する菌です。湿疹や虫刺され、擦り傷などから入り込むことで発症します。
原因菌によって症状が異なり、水疱性と痂皮性の2つに分類されます。
水疱性膿痂疹の原因菌は黄色ブドウ球菌で、乳幼児~小児に好発し、夏ごろに発症することが多いとされています。
一方で、痂皮性膿痂疹の原因菌はA群β溶血性連鎖球菌で、年齢を問わず発症します。高齢者やアトピーなどで皮膚のバリア機能が低下している成人に多く見られ、季節も関係なく発症します。
この記事では小児期に発症することの多い水疱性膿痂疹をメインにお話していきますね。
伝染性膿痂疹(とびひ)の症状と予後
伝染性膿痂疹(とびひ)の症状
伝染性膿痂疹は2つに分類されますが、どちらにも共通してみられる初期症状として、
- 感染部位の赤みや腫れ
- 痒み
が挙げられます。
水疱性膿痂疹の症状
- 透明または黄色の体液で満たされた小さな水疱が現れる
- 水疱は顔・体幹・四肢にでき、赤みや痒みを伴う
- 水疱は破れやすく、中の液体を触れた手で体の別の部位を触ることで病変が広がる
- 水疱が破れた後は、黄色や茶色のかさぶたを形成する
小児に見られる特徴としては、子どもが触りやすい目・耳・鼻腔・口の周囲から始まることがあります。
水疱内の体液で患部が広がっていくという現象は、黄色ブドウ球菌が産生する表皮剥脱毒素(exfoliative toxin、ET)という毒素が皮膚細胞を破壊することで起こります。毒素によって皮膚細胞が破壊されると、水疱やかさぶたを形成され感染が広がります。
通常の水疱性膿痂疹ではニコルスキー現象は見られませんが、病状が進行しブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)になると、ニコルスキー現象が見られるようになります。
ニコルスキー現象とは
ニコルスキー現象(Nikolsky’s sign)は、皮膚疾患の診断において重要な臨床徴候の一つで、特定の皮膚状態において観察されます。
この現象は一見正常に見える皮膚でも、軽く摩擦することで水疱や表皮剥離を生じさせる現象です。
表皮が基底膜から容易に剥離する状態を指します。
ニコルスキー現象は、皮膚の結合組織が何らかの理由で弱まっていることを示し、重篤な皮膚疾患の診断において特に有用です。
伝染性膿痂疹(とびひ)の予後
伝染性膿痂疹は適切に治療すれば、通常は問題なく治癒します。しかし、治療せずに放置すると、病状が進行し重篤な合併症を引き起こします。
その合併症の一つが、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)です。
ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)とは
SSSSは主に乳幼児に見られる病態で、黄色ブドウ球菌が産生する毒素(ET)によって引き起こされる特有の皮膚の状態のことを言います。この毒素が体内に入り込み、皮膚の表皮細胞間の結合を破壊することで、皮膚が赤くなり、広範囲にわたって剥離(はくり)するという特徴があります。
SSSSまで状態が進行した場合は、入院して全身管理が必要となります。
溶連菌が原因となる伝染性膿痂疹では、SSSSを発症することはありません。しかし、溶連菌感染も放置すると、リウマチ熱や急性糸球体腎炎など、他の重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
伝染性膿痂疹(とびひ)の診断と分類
伝染性膿痂疹の診断
診断は、外見上の特徴や症状に基づいて行われます。
必要に応じて、皮膚のサンプル(水疱の内容物)を採取して、黄色ブドウ球菌が検出されると確定診断となります。
伝染性膿痂疹の分類
伝染性膿痂疹(とびひ)の分類 | ||
---|---|---|
水疱性(水ぶくれタイプ) | 痂皮性(かさぶたタイプ) | |
原因菌 | 黄色ブドウ球菌 | 溶連菌 |
好発季節 | 初夏~夏 | 年間を通じて発生する |
好発年齢 | 乳幼児~小児 | 年齢を問わず発生する |
特徴 |
|
|
伝染性膿痂疹(とびひ)の治療法
伝染性膿痂疹の治療は、患部を清潔に保つことを目的とした一般療法と薬物療法です。
適切に治療すれば1週間程度で治癒します。
【一般療法】
- 皮膚を清潔に保つ
- 患部をガーゼなどで覆い、水疱の掻き壊しを防ぎ、感染が他の部位や他人に広がるのを防ぐ
【薬物療法】
- 塗り薬(フシジン酸軟膏):黄色ブドウ球菌に効く抗生物質を含んだ軟膏。1日2~3回、患部に塗ります
- 塗り薬痒み止めの内服薬(抗ヒスタミン薬):痒みを軽減させる、痒みによる掻き壊しを抑え、病変が広がるのを防ぐために内服します
病変が広範囲に及び発熱を伴う場合には、第一セフェム系やマクロライド系の抗生剤を内服します。
病変が広範囲に及び発熱を伴う場合は、感染が局所的なものから全身に影響を及ぼしている可能性があります。
これは、感染がより深刻であり、身体の他の部分にも拡散しているか、全身的な反応を引き起こしていることを意味します。このような状況では、局所的な治療だけでは不十分であり、感染を効果的に制御するためには全身治療が必要となります。
伝染性膿痂疹(とびひ)にかかった時の対応
子どもが伝染性膿痂疹(とびひ)にかかった時には、「子どもの回復を促すための対応」と、「感染拡大を予防する対応」の2つの対応が必要になってきます。
子どもの回復を促すための対応
- 患部を清潔に保つために、流水と石鹸で洗浄をしましょう。 患部は擦らずに、石鹸で優しく洗浄しましょう
- 洗浄した後は、清潔なタオルで優しくたたくようにして患部を乾燥させます。摩擦を避けるため、患部を擦らないように注意してください
- 痒みをコントロールするためにも、通気性が良く、患部に圧迫感や摩擦を与えないソフトな素材の衣服を選び着用させましましょう
- 医師から処方された抗菌薬や抗生物質軟膏を、決められた指示のとおりに使用しましょう
感染拡大を予防する対応
- 患部を清潔なガーゼで覆いましょう。感染が他の部位や他の人に広がるのを防ぐためです。患部を密閉せず、空気が通るようにすることが望ましいとされています
- 患児が使用したタオルや寝具などは他の家族と分けましょう。洗濯は一緒にしても大丈夫です
- 患部に触れた後は、必ず手を洗うようにしましょう。また、爪を短く切り掻きむしって新たな傷をつくらないようにしましょう
よくある質問
Q:とびひではプールに入ることはできますか?
A:プールの水を介して人にうつることはありません。
しかし、水疱が破れて中の浸出液が付いた何かを他の人が触ってしまうと感染が拡大するので、病気が完治するまでプールは控えましょう
Q:とびひに効く市販の薬はありますか?市販のステロイド薬(リンデロン)を使っても良いですか?
A:治療に用いられるフシジン酸を含む軟膏は市販されておらず、一般的に処方箋が必要な医薬品として扱われています。
リンデロンなどのステロイド軟膏には、強力な抗炎症作用があり伝染性膿痂疹に伴う炎症やかゆみを抑えるために用いられることがあります。
しかし、ステロイド薬だけで伝染性膿痂疹を治療することは一般的ではありません。これは、ステロイド薬が細菌感染そのものを治療するものではなく、症状の緩和に寄与するだけだからです。逆にステロイドには易感染状態を引き起こす副作用があります。この副作用により、既存の感染症が悪化や、感染が拡大するリスクが高まることがあります。
伝染性膿痂疹は細菌感染による皮膚疾患であり、治療には原因菌に対する適切な抗生物質が必要です。ステロイド薬を使用する目的は、炎症を抑え、かゆみや赤みを軽減することにありますが、これらはあくまで補助的な治療であり、感染そのものには作用しません。
Q:薬はいつまで塗れば良いですか?症状が無くなれば塗るのを止めても良いですか?
A:基本的には医師から指示された期間や使用方法に従ってください。
見た目上症状が改善した場合でも感染が完全には治まっていない可能性があり、早期に治療を中断すると再発するリスクがあるためです。
Q:症状がなかなか改善しない場合はどうすればよいですか?
A:使用している軟膏で症状の改善が見られない場合は、追加の診察を受けるために医師に相談してください。
また、痒みがあると寝ている時や無意識に掻いて、病変を広げている可能性があるので、ガーゼできちんと覆えているか、爪は短く切っているかなどを確認してみて下さい。
Q:とびひになったら、幼稚園・保育園などは何日休む必要がある?
A:伝染性膿痂疹(とびひ)では出席停止期間に関して特に決まりはありません。
患部をガーゼなどできちんと覆うことができるのであれば、登園できます。
しかし、幼稚園や保育園では感染が広がりやすいので、医師や通っている園に相談した方が良いでしょう。
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カテゴリー:夏に多い子供の病気 投稿日:2024-05-30
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