エンテロウイルス感染症 総論(手足口病、ヘルパンギーナ)
エンテロウイルス感染症とは
エンテロウイルス感染症とは、エンテロウイルス属に属するウイルスによって引き起こされる感染症のことを言います。
エンテロウイルスには多くの種類がありますが、ウイルスを含んだ飛沫を触ったり吸い込んだりすることで接触・飛沫感染します。感染後、ウイルスが腸管内で増殖し、糞便を介して排出されることによる糞口感染(fecal-oral transmission)のリスクを生じさせたり、血流に入ったりすることで身体の他の部位に運ばれ症状を発症します。
感染力が強く、発症直後の数日間に最もウイルスが排出されますが、回復後も2~4週間に渡って便中にもウイルスが排出されるので、おむつ交換の後の手洗いなどを十分に行うことが重要になります。
※エンテロウイルスの種類
ピコルナウイルス科のエンテロウイルス属のうち、ポリオウイルス、コクサッキーウイルスA群・B群、エコーウイルス、エンテロウイルスに分類されるものをエンテロウイルスと言います。
発症する症状は、軽度の風邪様症状から、より深刻な疾患(例えば、手足口病、ヘルパンギーナ、心筋炎、髄膜炎)に至るまで多岐にわたります。
小児科領域では、主に手足口病やヘルパンギーナが代表的なエンテロウイルス感染症になりますので、この記事ではこの2疾患について解説していきます。
手足口病とヘルパンギーナはよく似ているので、それぞれの特徴を簡単に表にまとめてみました。
手足口病 | ヘルパンギーナ | |
---|---|---|
症状 | 手足の小水疱 口腔内前方の水疱 のどの痛み 軽度の発熱(38度以下) |
発熱(39度以上) 口腔内後方の水疱 のどの痛み |
原因ウイルス | コクサッキーウイルスA群 (6型、10型、16型) エンテロウイルス71型 など |
コクサッキーウイルスA群 (2~6型、8型、10型) |
好発 | 乳幼児~5歳ごろ | 乳幼児 |
発熱 | 38度以下の発熱が約30%に見られる | 39度以上の高熱 |
水疱 | 口腔内前方、手のひら、足の裏など | 口腔内後方 |
エンテロウイルス感染症に対する治療は、基本的には対症療法です。エンテロウイルス感染症は一般的に症状が比較的短く、個人の自己免疫によって完治することが多い疾患です。
少し専門的になりますが、エンテロウイルスが引き起こす疾患は少し複雑です。
それは、「各種ウイルスが異なる症状を引き起こす」一方で、「各種ウイルス=1つの特定の疾患というような対応をしていない」という特徴があるからです。
例えばコクサッキーウイルスが手足口病を、エコーウイルスが髄膜炎を引き起こす可能性がある一方で、コクサッキーウイルスA16型は主に手足口病を引き起こしますが、他の臨床症状を引き起こすこともあります。また、一つの疾患が複数のエンテロウイルスによって引き起こされることもあるといった感じです。
同じエンテロウイルス感染症に分類される手足口病とヘルパンギーナですが、合併症のリスクは異なる場合があります。エンテロウイルス71型(EV-A71)に感染して発症する手足口病の場合、ごく稀にですが、脳炎や髄膜炎といった神経系の合併症を起こすことが知られています。これらの合併症は比較的まれではありますが、発生した場合には重篤であることが多く、迅速な医療介入が必要です。
手足口病
手足口病とは
エンテロウイルスの中でも、コクサッキーウイルスA群(6・10・16型)、エンテロウイルス71型という種類のウイルスに感染することで発症します。
その名の通り、手のひらや足の裏を含めた手足や、口の中、時にはお尻などに、赤いプツプツとした発疹や水疱(水ぶくれ)ができる病気です。
生後6ヶ月~5歳頃の乳幼児に好発するのですが、感染力が強いことから、幼稚園や保育園などの施設内で集団感染が起こりやすいことも特徴です。
学校保健安全法では、手足口病の出席停止は義務付けられていません。発熱・のどの痛み・発疹などの症状が無ければ登園・登校できます。
ごく稀に、脊髄炎や脳炎、心筋炎などの合併症引き起こす場合があります。
手足口病の好発年齢・好発時期
好発年齢は、生後6ヶ月~5歳頃で、乳幼児だけでなく学童期にもよく見られます。
主に子どもに発症することが多いですが、家庭内に発症している子どもがいる場合や、抵抗力が落ちている場合には、大人も罹患します。
好発時期は夏季で、子どもの3大夏風邪の1つとされています。
手足口病の感染経路
感染源は、感染者の鼻水、唾液、便、水泡がつぶれた時に出てくる浸出液になるので、飛沫・接触感染で感染が広がっていきます。
手足口病の症状
主な症状は以下になります。
- 軽度の発熱
- のどの痛み
- 手・足に赤いプツプツとした発疹(お尻に出ることもあります)
- 口腔内の水疱
- 症状が消失した後1~2ヶ月後に手足の爪が一次的に脱落する場合もある
手足口病に罹患すると、まず突然の発熱があり、その後のどの痛みや発疹が出現します。発熱は38℃までいかないような軽度な発熱であることが多く、発熱しない人もいます。
手足口病の治療
治療は対症療法で、発熱や喉の痛みに対して、解熱鎮痛剤を用いながら経過観察します。
ごく稀に、脊髄炎や脳炎、心筋炎、神経原性肺水腫、急性弛緩性麻痺などの合併症引き起こす場合があります。経過観察をする上で、いつもと違う感じ、または以下のような症状がある場合はすぐに医療機関を受診しましょう。
- 高熱や2日以上続く発熱がある
- 頭や首を痛がる
- 嘔吐する
- 呼吸が速い、息苦しそう
- おしっこが出ていない、または、おしっこは出るが少量で色がとても濃い
- 意識の変化がある(呼びかけに反応しない、視線が合わない、弱々しく泣く、しゃべらない、活気がない、ぐったりしている、など)
ヘルパンギーナ
ヘルパンギーナとは
エンテロウイルスの中にコクサッキーウイルスA群に感染することで、発症します。
乳幼児に好発することが多く、突然の高熱と、口腔内の水疱を伴います。
治療は対症療法で、基本的に特効薬はありません。自宅療養していれば1週間程度で自然に回復します。
学校保健安全法では、手足口病の出席停止は義務付けられていません。発熱・のどの痛み・発疹などの症状が無ければ登園・登校できます。
ヘルパンギーナの好発年齢・好発時期
生後数ヶ月から小学校低学年程度までの子どもに多く見られます。感染の大部分は5歳未満の乳幼児で、発症患者全体の90%が1歳代といとも言われており、乳幼児に非常に高い頻度で見られます。
主に子どもに発症することが多いですが、家庭内に発症している子どもがいる場合や、抵抗力が落ちている場合には、大人も罹患します。
好発時期は夏季で、子どもの3大夏風邪の1つとされています。
ヘルパンギーナの感染経路
感染源は、感染者の鼻水、唾液、便で、飛沫・接触感染で感染が広がっていきます。
乳幼児の発症が多いので、おむつ交換後の手洗いが不十分な場合は感染を広げてしまいます。
ヘルパンギーナの症状
主な症状は以下になります
- 発熱
- 口内の後部(咽頭や口蓋扁桃周辺)に現れる小さな水疱や潰瘍
- のどの痛み
- 食欲不振
- 唾液・よだれの増加
発症の初期段階で突然の高熱が見られます。続いて、のどの痛みや不快感が現れ、発症後1~2日以内に口腔内に水疱が形成されます。
これらの症状に伴い、食欲不振・食事量が減るといったことが見られるようになります。また、唾を飲み込む際に痛みを伴うことから、よだれが増えるといったことが観察できることもあります。
ヘルパンギーナの治療
治療は対症療法で、発熱や喉の痛みに対して、解熱鎮痛剤を用いながら経過観察します。基本的に特効薬はなく、自身の自然治癒力によって回復していきます。
発熱や水分摂取が減ることで、乳幼児は特に脱水状態に陥りやすくなります。
解熱鎮痛剤を適宜使用し、体力回復に努めましょう。
エンテロウイルス感染症の予防と感染を広げない方法
手洗い、うがい、マスクの着用を心がけ、よだれなどを拭いたティッシュはすぐに捨てるようにしましょう。
また、頻繁に触れる表面や物(ドアノブ、スイッチ、リモコン、おもちゃなど)を定期的に消毒し、食器、タオル、寝具など物品の共有を控えることで、感染拡大を防ぎましょう。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:夏に多い子供の病気 投稿日:2024-06-10
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