多嚢胞性卵巣症候群

多嚢胞性卵巣症候群

多嚢胞性卵巣症候群(たのうほうせいらんそうしょうこうぐん;PCOS)とは?

PCOSは生殖年齢女性の10%程度にみられると報告されている疾患です。

月経が正常に来ない、排卵が起こらず卵巣内に卵胞が溜まっている、男性ホルモン値が高くなるを特徴としています。

放置しておくと不妊症や子宮体癌になってしまう恐れがあります。メタボリックシンドロームと関係があると言われており、将来糖尿病や高血圧などの生活習慣病になってしまうかもしれません。

本日はPCOSについてお話しします。

原因

PCOSのはっきりとした原因はまだわかっていません。

視床下部ー下垂体ー卵巣における女性ホルモンの分泌異常や糖代謝の異常がベースにあると考えられています。メタボリックシンドロームと関連があると言われており、肥満、運動不足、不規則な食生活など環境因子により発症すると推測されています。

症状

最もよくみられる症状は月経の異常です。月経が来るタイミングがバラバラとなる月経不順や月経周期が長くなる希発月経になります。月経が全く来なくなる場合もあります。男性ホルモン値が高くなるため、ニキビができやすくなったり毛深くなったりします。

診断

日本産科婦人科学会より診断基準(2024年版)が示されており、以下の3項目すべてを満たす方をPCOSと診断しています。

  1. 月経周期異常
  2. 多嚢胞卵巣 または AMH高値
  3. アンドロゲン過剰症 または LH高値

①の月経周期異常というのは、無月経(月経が来ない)、希発月経(月経がめったに来ない、周期が39日を超えている)、無排卵周期症(卵胞の発育が途中で止まりうまく排卵が起こらず、月経周期が乱れている)のことを指します。

②の多嚢胞卵巣は超音波検査で診断することができます。PCOSの方では両方の卵巣内に多数の小さな嚢胞がみられます。一個の卵巣内に直径2-9㎜の小卵胞が10個以上みられるとPCOSと判断します。

AMHはアンチミュラー管ホルモンのことで卵巣内に残されている卵子の数を示しています。血液検査で測定することができます。PCOSの方では、排卵が障害されているので、卵巣内に多数の卵子が残っており、AMH値が高くなります。AMHを測定することはPCOSの診断において必須ではありません。

③について、アンドロゲンやLHは血液検査で測定することができます。ピルや排卵誘発剤などを内服していると、これらの値に影響を及ぼすので1カ月以上内服しておらず、直径10㎜以上の卵胞がみられないことを確認して測定する必要があります。

思春期の方では、②の確認が困難であるため①と③を満たす場合にPCOS疑いと判断します。

治療

妊娠を希望しているかどうかによって方針が変わります。

妊娠を希望している場合には排卵がうまく起こるような治療を行っていきます。以下の治療で妊娠に至らない場合には体外受精を検討していきます。

排卵誘発

クロミフェンという飲み薬を用いて排卵が起こるようにします。クロミフェンの効果が見られない場合には卵巣を刺激する注射を行います。

腹腔鏡による手術

PCOSの方では卵巣表面の皮が硬くて排卵ができません。卵巣の表面に小さな穴をあけて排卵しやすくします。

生活習慣の改善

PCOSはメタボリックシンドロームと関連があると言われています。定期的な運動、食事療法、減量をおすすめしています。

妊娠の希望がない場合には、月経の周期を整えるための治療を行います。月経が来ない状態が長く続くと子宮内膜のリセットが行われず、子宮内膜増殖症や子宮体癌のリスクが高まるためです。

ホルムストローム療法

月経周期の後半に黄体ホルモンを内服します。黄体ホルモンによって子宮内膜がしっかりと厚くなり、内服を止めると数日で出血が起こります。定期的に内膜をリセットできます。

低用量ピル(LEP)

低用量ピルは女性ホルモンの量を少なくすることによって副作用を抑えているピルです。内服することによって月経周期が整うだけでなく、月経痛やニキビ、PMSの症状を抑えることも期待できます。

まとめ

月経不順や不正性器出血が続く場合にはPCOSという疾患にかかっているかもしれません。放置しておくと子宮体癌のリスクが高まり危険です。メタボリックシンドロームと関連があると言われており、将来糖尿病、高血圧、心血管イベントを起こすリスクが高いと言われています。

超音波検査や血液検査で診断することができます。早めに診断し、適切な管理を行うことで、合併症が起こる可能性を下げることができます。月経のことでお困りであれば、気軽にご相談頂けると幸いです。

参考文献

  • 女性医学ガイドブック2016年版 思春期・性成熟期編
  • 多嚢胞性卵巣症候群に関する全国症例調査の結果と本邦における新しい診断基準(2024)について 日本産科婦人科学会