気管支喘息とは?
気管支喘息は、慢性的に空気の通り道(気道)に炎症を起こしており、それが引き金となって気道が敏感になって気道が狭くなる病気です。
慢性的に気道に炎症が起きることで、
- 咳
- 痰
- 喘鳴(ゼーゼーと胸の音が聞こえる)
- 息苦しさ
といった症状が続きます。
喘息はさらにひどくなると、
- 息苦しくて横に慣れない
- 動くのも苦しい
- 息が苦しくてしゃべれない
と、日常生活が送れなくなるくらい強い症状が出現します。これを喘息発作と呼びます。気管支喘息はこのような症状が一時的ではなく、ずっと続く病気です。
治療薬としては成人の場合、吸入ステロイドが主体になります。ステロイドは、気管支の炎症を抑える効果があるお薬です。この吸入ステロイドを症状が無くても毎日きちんと続けることで、気管支喘息の悪化を防ぐことができます。
一方で喘息発作が起きた場合は、β2刺激薬といって気道を拡げる吸入薬を吸うことで治療します。さらに気管支喘息が悪化した場合は、医療機関でステロイドの点滴が必要になります。
気管支喘息はコントロールが悪く、気管支内の炎症が持続してしまうと気管支自体が分厚くなり、元に戻らなくなります。このような状態を、リモデリングと呼びます。
リモデリングを起こしてしまった気管支喘息は、非常に難治性になります。ですから気管支喘息は、治療に反応しなくなる前にしっかりと治療を続けることが大切です。病状をコントロールし続けることが大切な病気なのです。
気管支喘息は診断が難しい病気
- 今まで喘息なんてなかったのに、いきなり診断されて戸惑っている。
- 聴診で胸がヒューヒューしているから喘息と診断された。
- 喘息の吸入薬はいつまで吸ってないといけないの?
気管支喘息と診断された方の中には、このような思いの方も少なくないかと思います。気管支喘息は非常に診断が難しい病気です。
ガイドラインでは、
- 喘息に典型的な喘鳴・息苦しさ・咳の反復
- 可逆性の気流制限
- 他の疾患の否定
- 気道過敏性の亢進
- アトピー性素因の存在
- 気道炎症の存在
の6つを参考に診断するようにとされています。
つまり、「これとこれが当てはまれば絶対に気管支喘息」という診断基準がないのです。気管支喘息に特徴なのが、胸の音がヒューヒューする喘鳴(ぜんめい)です。
しかし喘鳴は、気管支が狭くなった時に聞こえる音です。そのため喘鳴が聞こえても、「気管支喘息の可能性がある」だけで「気管支喘息と診断できる」わけではありません。
気管支が狭くなる病気はたくさんあります。気管支喘息以外にも、
- 心不全
- 肺気腫(COPD)
- 肺炎
- 咽頭炎
- 気管内異物
などを中心に鑑別する必要があります。
実際に呼吸器内科医として診察した患者さんのうち、2~3割の患者さんは気管支喘息ではなかったという感覚です。特に心不全と肺気腫は、絶対に除外しなければいけない病気です。
喘息の診断に必要なチェックポイント
気管支喘息は、診断は簡単ではありません。診断にあたっては、詳細な問診が大切になります。気管支喘息の最初の手掛かりは、患者さん自身の症状経過になります。
喘息を正しく診断するために、患者さんがチェックしていただきたいポイントをお伝えしたいと思います。
まずは喘息のような症状の特徴からです。
- いつ?
- どんな時に?
- どのようなことをしたら?
- どのような症状が出るのか?
気管支喘息はこのような質問から、特徴的な所見が無いかをチェックしていきます。
さらに気管支喘息は、アレルギー疾患の一つです。そのためアレルギーに関しては、下記のことを確認します。
- アレルギー性鼻炎がないか?
- アトピー性皮膚炎がないか?
- 花粉症(スギ・ヒノキ・カモガヤ)などがないか?
- 動物(猫や犬、ハムスター)に近づくことで発作は出現するか?
- 古い建物に入ると発作は出現するか?(ダニやカビ、ゴキブリ)
- 特定の食べ物で咳は誘発されるか?(卵・小麦・牛乳・甲殻類)
- 特定の薬で咳は誘発されるか?(特にロキソニンなどの痛み止めで発作が出現するか)
さらに近年では、難治性の気管支喘息はアレルギー以外のメカニズムが原因となって悪化することが知られています。そのため、アレルギー以外のことも確認する必要があります。
具体的には、
- タバコを喫煙しているか?もしくは以前に喫煙していたか?
- 風邪などをひきやすいか?
- 仕事や家などで排気物質を吸いやすいか?
- 気象で発作が引き起こされるか?
- アルコールを飲むと発作が起きやすいか?
- 逆流性食道炎は指摘されたことはあるか?
- ストレスや疲労で発作が起きやすいか?
- 生理のタイミングで発作が起きやすいか?
- 最近太ったりしたか?
- 家族で喘息やアレルギー疾患を指摘された人はいるか?
- 辛い物を食べたときに咳が誘発されるか?
- 運動で咳が誘発されるか?
- 夜間に咳や喘鳴があるか?
これらのチェックポイントは喘息の可能性を調べるとともに、他の病気との鑑別にもつながります。もし受診する前にこれらのことで何か思い当たることがあれば、事前に医師にお伝えください。
気管支喘息の検査と診断
患者さんを診察して喘息が疑われた方には、希望を伺いながら、以下のような検査を行っていきます。
それぞれの検査について、その目的をお伝えしていきましょう。
気管支喘息でのレントゲン検査の目的
まずは①レントゲン写真です。レントゲン写真は、胸の中に何か異常が無いか、見た目を見る検査です。気管支喘息は、胸部レントゲンではあまり変化がありません。
胸部のレントゲン写真を撮るのは、どちらかというと他の病気を除外するためです。長引く咳は気管支喘息以外にも、
- 肺癌
- 結核
など怖い病気が隠れていることがあります。
気管支喘息かどうかをハッキリさせるためにも、まずは胸部レントゲンで怖い病気が隠れていないか調べていきます。
気管支喘息での呼吸機能検査の目的
怖い病気が除外できた人は、②呼吸機能検査を行っていきます。
物理的な異常は胸部のレントゲン写真で判断します。一方で、喘息の様な炎症が起きて気道が狭まるといったミクロな異常は、レントゲン写真では異常をみつけるのが困難です。
こういった機能的な異常を知るためには、呼吸機能検査という検査が行われます。呼吸検査で調べる項目は2つです。
- 肺のボリュームはどれくらいか?(肺活量)
- 息がどれくらい思いっきり吐けるか?(1秒率)
特に気管支喘息は、この②の1秒率が低下する病気です。気管支が狭くなることで、息が一度に吐けなくなるのをこの検査で確認します。
さらに気管支喘息は、一般的にはβ2刺激薬を吸入することで気管支が広がる病気です。そのため、β2刺激薬を吸入した後にもう一度呼吸機能検査をすることで、薬の反応を確認することもできます。
気管支喘息での呼気ガス検査の目的
しかし気管支喘息は、呼吸機能検査だけでも診断が難しい検査です。
実際に気管支喘息が落ち着いてるときは、呼吸機能検査でも正常値を示すことが多いですし、発作が出ている時には咳でうまく検査ができないことも多々あります。
そのため当院では、さらに踏み込んで呼気NO(一酸化窒素)を測定します。
気管支喘息は、気道に慢性的に何らかの炎症が持続している病気です。気道に炎症を起こしていると、一酸化窒素が産生されます。息を吐いてもらって、その一酸化窒素の量から炎症の程度を確認することができます。
この呼気NO検査は、気管支喘息で最新の検査として注目を集めています。呼気NOが22ppb以上であれば喘息の可能性が高く、37ppb以上であれば気管支喘息とほぼ診断できると考えられています。
今まで自分が気管支喘息かどうかモヤモヤしていた方も、呼気NO検査では数値でハッキリします。このため患者さんにも、納得していただきやすい検査となっています。
このように、様々な角度から気管支喘息の診断を行っていきます。
再発を防ぐための気管支喘息の治療
気管支喘息と診断がついたら、次は治療になります。
気管支喘息の治療は、
- 長期管理治療:喘息の炎症を抑え続けて、喘息の悪化や発作を予防
- 発作治療:喘息発作時に対して、症状を和らげる
の2つに分かれます。
②の発作治療に関しては、苦しいのを何とかしたいので、みなさん積極的です。一方で長期管理治療は、症状がなくても毎日治療しなくてはなりません。そのため、モチベーションが続かない人も少なくありません。
患者さんによっては、発作が起きるたびに病院に受診される方も少なくありませんが、それはいけません。気管支喘息発作は起きれば起きるほど、先ほど説明したリモデリングが起こります。
こうなると気管支喘息発作が起きた時の治療薬である
- β2刺激薬
- ステロイド点滴
- テオフィリン点滴
に反応しづらくなります。
実は気管支喘息は、これ以上の治療が現時点ではないのです。ひどい場合は、入院下で治療することになります。そのため気管支喘息の難治性の方は、毎月入院されている方も少なくありません。一生のうちのほとんどを病院で過ごすようになる前に、長期管理に力を入れていきましょう。
成人の気管支喘息の長期管理治療は、吸入ステロイドとβ2刺激薬の合剤が主流です。この合剤は、
- シムビコート
- レルベア
- フルティフォーム
- アドエア
の4種類があります。
患者さんごとに、この4種類のお薬の中から合うものを見つけていきます。気管支喘息の治療は、1日や2日お薬を吸えば終わりというものではなく、長期間にわたります。医師から処方されたお薬を漫然と使っているだけでは、なかなか長続きしないことが多いです。
ぜひ、治療に対するご自身の考えがあれば、医師に伝えてください。
- 毎日吸うのがめんどくさい
- 薬代が意外と辛い
- 吸入すると胸がドキドキする副作用が出たから吸いたくない
などなど、何かあれば率直に伝えてください。
気管支喘息は継続して治療することが大切ですので、ご自身で納得していただいて治療を行っていただくことが重要です。
気管支喘息の症状悪化の原因と対策
気管支喘息は、治療薬以外にも日常生活を気を付けるべき病気です。
気管支喘息発作の原因となる
- 感染
- アレルゲン
- ストレスと過労
の対策も考えていく必要があります。
喘息をしっかりとコントロールしていくためには、薬物治療だけでなく、悪化する原因の対策と予防も大切にして治療していく必要があります。
感染
まずは①感染です。風邪を100%防ぐのは難しいですが、対策することはできます。特にばい菌の中でも猛威を振るう
- インフルエンザ
- 肺炎球菌
の2つのワクチンについては、積極的に予防接種したほうが良いです。
それぞれの予防接種について詳しく知りたい方は、
をお読みください。
アレルゲン
次に②アレルゲンです。経験的にアレルギーの原因があるか分かっている方もいるかと思います。ですが採血することによって、数値でアレルギーの状態を確認することができます。
一般的に喘息は、花粉および動物やダニなどの主要アレルゲンである16項目を調べるようにガイドラインでは記載されています。
その16項目は、以下にようになります。
- ハウスダスト
- ダニ
- スギ
- ヒノキ
- ハンノキ
- ブタクサ
- ヨモギ
- 猫のフケ
- 犬のフケ
- カンジタ
- アスペルギルス
- アルテルナリア
- ガ
- ユスリカ
- ゴキブリ
- カモガヤ
ですがもし、自分で思い当たることがあって他に調べてみたい項目があれば、事前におっしゃっていただければ調べることもできます。アレルゲンが分かれば、それを避けるための対策が立てやすくなります。
詳しく知りたい方は、アレルギー外来のご案内をお読みください。
ストレス
最後に③ストレスです。ストレスはアレルギーを悪化させ、喘息症状を悪化させる要因となります。
当院では「こころの病気」と「からだの病気」を、それぞれの専門家が連携して診療をしていきます。
もし、
- 精神的に辛いことがあって眠れない
- 仕事が忙しくてストレスがたまる
- イライラすることが多い
などのことがあればご相談ください。
必要に応じてこころの外来医師のサポートもうけながら、治療をすすめていくことができます。
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医療職はもちろんのこと、法人運営スタッフ(医療経験を問わない総合職)も随時募集しています。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:気管支喘息 投稿日:2019-05-14
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