はじめに
みなさんが健康診断をうけられると、血液検査の項目のひとつに「HbA1c」という値があります。
この値は、糖尿病に関係する値としてご存じの方も多いかと思います。こちらが高い場合、糖尿病の可能性があるため病院での精査や受診を推奨されることが多いです。
このHbA1cは、体の中の糖の状態をみていくのに非常に有用な検査です。といっても、数字を見てもどれくらいの重症度なのか、なかなかイメージがつかないかと思います。よく患者さんには、HbA1cの数字の前に「3」をつけると体温と同じくらいと伝えると、イメージしていただけます。
- HbA1c7.0 →体温37℃
- HbA1c8.0→体温38℃
- HbA1c9.0→体温39℃
- HbA1c10.0 →体温40℃
かなりおおざっぱですが、このようにお伝えするとご自身の状態の悪さに気付いてくださる方が多いです。
ここではHbA1cとその値の意味について、詳しくお伝えしていきたいと思います。
HbA1cとは?
HbA1cは、「ヘモグロビン エーワンシー」と読みます。
ヘモグロビンというと、聞いたことがある方もいらっしゃるかと思います。私たちの酸素を身体に運ぶために必要な赤血球の成分になります。このヘモグロビンが、血液の中の糖分とくっつくという性質があります。このヘモグロビンと糖分がくっついている割合が、HbA1cとなります。
いったん糖とくっついたヘモグロビン(糖化ヘモグロビン)は、赤血球が壊れるまでは戻りません。赤血球の寿命は120日(4か月)ほどになりますので長く残ります。
血液の中に糖が高い状態が続いていると、少しずつ糖化ヘモグロビンの割合が高くなっていきます。つまりHbA1cが上がっていきます。一方で低い状態が続けば、少しずつ糖化ヘモグロビンの割合が低くなっていきます。つまりHbA1cが下がっていきます。
このようにHbA1cは、ゆっくりと変化していく性質があります。血液中の糖(グルコース)は、食事によって大きく変動します。それに対してHbA1cは、
- 過去1~2か月間の血糖値の平均値
が反映されます。このため、糖尿病の診断や治療効果の確認に、HbA1cが良く使われるのです。空腹時の血糖値も参考にはなるのですが、HbA1cは直前の食事や運動といった短期間での活動が影響しないため、より重要視されています。
HbA1cが高いと糖尿病?
HbA1cが高いと糖尿病の可能性を考えていく必要が出てきます。
HbA1cが高かったからと言って、直ちに糖尿病と診断されるわけではありません。
- 早朝空腹時の血糖値≧126
- 空腹や満腹を問わない血糖値(随時血糖値)≧200
こちらのどちらかを同時に認められていると、糖尿病と診断となります。どらか一つだけの場合は、糖尿病型という判定がなされて、それぞれの値ごとに決められた検査をして精査していきます。こちらについては割愛させていただきます。
※詳しく知りたい方は、『私は糖尿病?境界型?糖尿病の診断基準について』をお読みください。
このように厳密にいうと、HbA1cだけでは診断はできないのですが、その数値の程度である程度わかります。HbA1cが7以上であれば、治療が必要となる可能性が高いです。
HbA1cは血糖以外が原因で変化することもあるのですが、そのような場合は少ないです。このため健康診断でHbA1cが高いと指摘された方は、ぜひ医療機関でご相談ください。
※糖尿病について詳しく知りたい方は、『糖尿病の症状・診断・治療について』をお読みください。
HbA1cの数値と重症度
冒頭でかかせていただきましたが、HbA1cの数字の頭に「3」をつけると、その重症度がイメージしやすいかと思います。
- HbA1c6.5→体温36.5℃→不摂生すると熱があがる
- HbA1c7.0 →体温37℃→優しめの治療が必要
- HbA1c8.0→体温38℃→ちゃんと治療する必要あり
- HbA1c9.0→体温39℃→しっかりと治療する必要あり
- HbA1c10.0 →体温40℃→入院も考える必要あり
このようなイメージでしょうか?少し乱暴ではありますが、大きく外れていないかと思います。ただHbA1c6~6.5程度の方は、平熱だから安心してよいというわけではありません。健康状態の確認と、生活習慣の意識は必要です。油断しているとすぐに熱が上がってしまいます。
このようにみると、HbA1c7以上であれば何らかの治療が必要となることが多いです。HbA1cが8以上の方は、ほぼ間違いなく糖尿病で治療が必要です。HbA1c10以上の場合は、すぐに治療を開始していきます。ですが治療がうまく進まない場合は、一度入院してインスリン治療なども検討が必要になります。いずれにしても糖尿病のことを正しく理解し、合併症がないかをチェックする教育入院などを行ったほうがよいケースが多いです。
このようにHbA1cは、糖尿病の重症度の大きな指標となります。
HbA1cの正常値と目標
それではHbA1cの正常値はどれくらいでしょうか?
- HbA1cの正常値は4.6〜6.2% ※糖尿病治療ガイドライン(日本糖尿病学会)
といわれています。
正常値とは、健康の人の95%が含まれる範囲のことを意味します。偏差値で言えば30~70までの間になりますから、健康であっても正常値から外れることはあります。
特定健診の特定保健指導では、5.6%未満を基準値としてラインを引いています。年齢や性別によっても違いはありますが、5.6未満であれば大きな問題がないといえるかと思います。特定保健指導は予防的な意味合いも強いため、
実際には、
- HbA1c=6.0~6.4:糖尿病の可能性あり
- HbA1c≧6.5:糖尿病の可能性が非常に高い
といえます。
糖尿病のガイドラインでは、治療の目標値として、
- 血糖正常化を目指す場合:6.0未満
- 合併症予防のための目標:7.0未満
- 治療強化が困難な人の目標:8.0未満
となっています。ですから糖尿病の治療にあたっては、HbA1cが5台になってきたらお薬を中止して経過をみることもできるようになります。5.5を下回ると、本当の意味で正常化したといえるでしょう。
しかしながら糖尿病は遺伝的な要素も強く、生活習慣を戻してしまうとHbA1cも悪化してしまいます。食事や運動などの生活習慣の意識は、HbA1cの数値が正常化しても継続することが大切です。
糖尿病以外でHbA1Cが影響を受けるケースとは?
HbA1cの値が、血糖以外の影響を受けるケースとしては、赤血球のヘモグロビンの影響が大きいです。
赤血球のヘモグロビンの影響を受けて、HbA1cが上下する可能性があります。
<HbA1c値が高い時>
赤血球の寿命が延びている場合
- 鉄欠乏状態
<HbA1c値が低い時>
赤血球の寿命が短縮している場合
- 鉄欠乏が改善している時
- 溶血性貧血
- 腎性貧血
- 糖尿病腎症など慢性腎不全・肝硬変・出血性胃潰瘍
<どちらもなり得るもの>
- 異常ヘモグロビン
鉄欠乏状態になると、それを補うために赤血球の寿命が延びます。背血球の寿命がのぼりということは、糖化ヘモグロビンに変化するものが残りやすいことになります。このためHbA1cは、実際より高い値で出てしまいます。
反対に赤血球の寿命が短くなる場合には、HbA1cは実際より低い値となります。具体的には溶結性貧血や出血性胃潰瘍、肝硬変などの場合になります。また腎性貧血の治療でエリスロポエチン製剤を注射すると、赤血球の数が急増化して、結果的にHbA1cが低い値となります。
このように赤血球の病気がある方は、糖尿病にかかわらずHbA1cが上下する可能性があります。
まとめ
健康診断などで良く測定されているHbA1cについてまとめてみました。
HbA1cの数字の頭に「3」をつけると、その重症度がイメージしやすい
- HbA1c6.5→体温36.5℃→不摂生すると熱があがる
- HbA1c7.0 →体温37℃→優しめの治療が必要
- HbA1c8.0→体温38℃→ちゃんと治療する必要あり
- HbA1c9.0→体温39℃→しっかりと治療する必要あり
- HbA1c10.0 →体温40℃→入院も考える必要あり
そのなかで6未満、できれば5.5未満を目指して治療を検討ください。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:糖尿病 投稿日:2020-10-03
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