はじめに
今日は糖尿病で発症する、”手足・指先のしびれ”についてお話しようと思います。
みなさんは、糖尿病になると手足や指先がしびれることを知っていますか?
この記事を読んでくださっている方は、
- すでに糖尿病と診断され、出現している手足のしびれに悩んでいる
- 糖尿病で手足がしびれることは知っていて、今自分に現れている手足のしびれが糖尿病によるものなのか?と悩んでいる
- 身近な人が糖尿病になり、糖尿病や手足のしびれについて詳しく知りたい
などという思いがあるのではないかと思います。
結論から述べますと、
糖尿病では、合併症の一つである「糖尿病神経障害」によって手足・指先のしびれを生じさせます。
手足・指先のしびれを完全に無くすことは難しく、悪化させないことを目的として治療が行われます。同時に日常生活でも気にしなければならないことが増え、過ごし方がとても重要になります。
この記事では、
- 糖尿病になるとなぜ手足がしびれるのか
- しびれに対してどのような治療が行われるのか
- しびれを悪化させないための日常生活のアドバイス
を解説しています。
手足・指先のしびれに悩んでおられる方、ぜひ読んでみて下さい。
手足・指先のしびれについて
糖尿病の合併症で”しびれ”と一言で言っても、その感じ方は様々です。
糖尿病患者さんから聞かれる”しびれ”は以下の様に言われることがあります。
- 正座の後の「ジンジン」する感じ
- 無数の針で指されるような「チクチク」する感じ
- 焼けるような痛みを伴う感覚
- 冷たいものに触れている感じ
- 締め付けるような感じ
- 電気が走るような鋭い感じ
- 感覚の鈍化(感覚が鈍くなり、痛みや温度を感じにくくなる)
「ジンジン」や「チクチク」は想像しやすいですが、他にも様々な感じ方があるようですね。
以下、日本糖尿病対策推進会議からチェックシートが出されていますので、気になる方はチェックしてみて下さい。
糖尿病で手足がしびれる理由(糖尿病神経障害)
糖尿病には、三つの大きな合併症があります。
- 神経が悪くなる「糖尿病神経障害」
- 目が悪くなる「糖尿病網膜症」
- 腎臓が悪くなる「糖尿病腎症」
手足・指先に生じるしびれは、糖尿病神経障害の症状の1つです。
糖尿病神経障害には、しびれ以外にも、立ちくらみ、脈拍の異常、排尿障害、下痢・便秘、発汗低下、勃起障害などの症状があります。
糖尿病神経障害は、三大合併症の中でも最も多い合併症で、最も早期に出現し頻度も高いものです。しかし、症状は軽視されやすく、発見が遅れることも多いとされています。
なぜ糖尿病になると神経障害が起きるのかを説明したいと思います。
結論からいうと、高血糖状態が神経を傷害するメカニズムは完全に解明されているわけではありません。しかし、以下のようなメカニズムだと考えられています。
- 血糖値が高いことで、血管壁を傷つけ血管壁が厚くなり、血管の内腔が狭くなります。小血管では血流障害が生じ、神経組織へ十分な酸素や栄養を届けられなくなるから
- 血糖値が高いことで、神経組織の炎症を引き起こすことが考えられるから
- 糖の代謝産物に細胞損傷を引き起こす物質があると考えられていて、この物質が神経細胞内に蓄積する、または、神経細胞にストレスを与えるから
治療の流れ
糖尿病による手足のしびれに対する治療は
- 糖尿病の治療(血糖コントロール・食事療法・運動療法)
- しびれに対する治療(疼痛コントロール)
となります。
しかし、手足・指先にしびれや痛みを生じさせる疾患は糖尿病以外の疾患でもみられます。ですので、まずは現在現れているしびれが糖尿病によるものかどうかという鑑別診断が重要になります。
①問診
- 発現状況や詳細な病歴について
- 糖尿病の管理について
- 生活習慣について
- 他の症状について
- 家族歴・既往歴について
②診察
- 神経学的診察:ハンマー、音叉、モノフィラメント検査など(反射、筋力、感覚を評価する)
- 足や皮膚の状態を観察
- 血圧の測定、心拍数の確認
- 眼底検査
③検査
- 血液検査
- CT、MRI
腎機能を評価する検査や、神経機能や血流を評価するための検査が行われることもあります。
これらの問診~検査を経て糖尿病以外の疾患が除外されると、糖尿病神経障害として治療が開始されます。
④治療
①糖尿病の治療
【血糖コントロール】
血糖値の適切な管理は糖尿病神経障害の進行を遅らせる最も重要なこととなります。
目標の血糖値範囲を保つことで、神経へのダメージを最小限に抑えられます。
【食事療法】
糖尿病患者にとってバランスのとれた食事は必須であり、血糖値の急な上昇や低下を避けることが重要です。
【運動療法】
適切な運動は血糖値を下げる助けとなり、心血管の健康を維持する上でも重要です。
ただし、足に異常を感じる患者は適切な足のケアと併せて運動する必要があります。
②しびれや疼痛に対する治療
疼痛やしびれの緩和を目的とした治療は、生活の質の向上を目指して行われます。
アンチデプレッサントや抗てんかん薬などが疼痛の緩和に用いられることがあります。
一部の患者には、トランスカタネウス電気神経刺激(TENS)という方法が有効であることが示されています。
⑤生活指導及び処方
【生活指導】
生活指導では、患者が日常生活で行うべき健康管理や、疾患の進行を遅らせるための行動について指導されます。
- 食事指導
- 運動指導
- 血糖管理
- 疾患教育
- 足のケア
【処方】
処方では、症状の管理や疾患の進行抑制、合併症の予防のための薬物などが処方されます。
- 血糖コントロール薬
- 合併症予防薬
- 神経障害症状緩和薬
- 生活習慣病の管理薬
⑥専門病院への紹介
血糖コントロールが特に困難な場合や、特定の合併症が発生した場合、または特殊な治療が必要な場合には専門医医院へ紹介されることもあります。
日常のアドバイス
糖尿病ではどのように日常生活を送るかで、症状の進行が左右されます。症状を悪化させないためにも、日常生活を気を付けましょう。
①足のケア
- 毎日、足を確認し、傷や腫れ、色の変わった部分、硬化や浮腫がないかをチェックしましょう
- 乾燥やひび割れを防ぐために、足には毎日保湿クリームやローションを塗りましょう
- 足の間の湿度を適切に保てるようにしましょう
- 適切な靴や靴下を選び、足に余計な圧力や摩擦をかけないようにしましょう
②血糖コントロール
- 血糖値の自己測定を定期的に行い、食事や運動、薬の摂取との関連を理解しましょう
③適度な運動
- 糖尿病の管理や循環の向上のために適度な運動を続けましょう。ただし、足に負担をかける運動をする際は、適切な靴を選ぶようにしてください
④禁煙
- 喫煙は血流を悪化させ、神経障害のリスクを増加させます
⑤アルコールの摂取を制限
- 過度なアルコール摂取も神経を傷つける可能性があります。アルコールの摂取はできる限り控えましょう
⑥定期的な健診
- 糖尿病の管理と神経障害の進行状況を定期的に医師や医療専門家と相談しましょう
⑦疼痛やしびれの変化に注意
- 症状の変化や悪化を感じたら、速やかに医師に相談しましょう
痛みを感じなくなった方が悪化している
さて、ここまで糖尿病神経障害の手足・指先のしびれについてお話してきました。
最初にも述べましたが、糖尿病による手足のしびれは完治することが難しく、症状を悪化させないということが重要になってきます。
その理由は、神経が非常に再生能力の低い組織であり、糖尿病性神経障害による損傷は、多くの場合、不可逆的とされているからです。
初期段階ではしびれや痛みは軽度ですみますが、進行すると足の感覚が無くなっていきます。
糖尿神経障害が末期まで進行した患者さんの中には3日間画鋲が刺さっていたことにも気付かなかったとい方もいらっしゃいます。
高血糖状態というのは細菌にとっては栄養が豊富な状態とも言い換えることができるので、小さな傷であっても感染のスピードが早く傷も治りにくくなります。
最悪の場合は下肢の切断も余儀なくされてしまいますので、手足・指先の感覚が鈍くなったと感じる場合は、すぐに医師に診察してもらいましょう。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:糖尿病 投稿日:2024-01-09
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