睡眠時無呼吸症候群(SAS)のマウスピースについて
睡眠時無呼吸症候群の治療法としては、CPAPと呼ばれる持続陽圧呼吸療法がおこなわれます。
これは陽圧をかけることで空気の通り道を広げ、睡眠中の呼吸状態を改善していく医療機器になります。
なかにはCPAPが合わない方や、抵抗がある方もいらっしゃいます。その場合は、マウスピースが治療選択肢となります。
マウスピース(口腔内装置)は、
- いびきをよくかく方
- 軽症から中等症の睡眠時無呼吸症候群の方
には、持続陽圧呼吸療法とほぼ同じくらいの治療効果が期待できることもあります。
口腔内装置は、上下それぞれの歯並びに合わせたマウスピースを用いて、下顎を少し前に突き出した位置にさせる装置です。
下顎が前に出ることで、筋肉に引っ張られて喉が開き、気道が拡大します。
心臓マッサージのトレーニングを受けたことがある方が多いかと思いますが、気道確保する際には下顎を前に出します。
子のマウスピースを、舌などがリラックスして落ち込む時間、つまり寝ている間に装着します。
2004年から保険診療として扱うことができますが、自己判断で歯科医院を受診し、口腔内装置を作製してもらうことはできません。
口腔内装置を作製するには、まず医師が睡眠時無呼吸の状況の評価、口腔内装置の必要性を評価します。
その結果から、歯科医に口腔内装置の作製を依頼します。歯科医はその紹介状があって初めて口腔内装置を作製することができます。
そして作製後は紹介元の歯科医師に、治療効果判定を依頼します。
口腔内装置によって下顎をどれだけ前に突き出させるかについては、様々な意見があります。
目安としては下顎を頑張って一番前に突き出させた距離を100として、50-75の間で調整することが多いです。
また口腔内装置を装着しはじめる時は、50の距離から始め、その治療効果を見ながら75の位置に向けて下顎の位置を徐々に調整していきます。
口腔内装置のメリット・デメリット・治療効果の高い位置について、そのバランスをみて最終的な下顎の位置を決めるこの作業をタイトレーションといいます。
マウスピースのメリット、デメリット
睡眠時無呼吸症候群の方にとって、マウスピース、CPAP、手術療法など様々ある中で、口腔内装置(マウスピース)は一番コンパクトで侵襲の少ない装置です。
CPAPのような大きな装置を装着することもなく、手術のような恐怖感もありません。
しかし、口腔内装置のデメリットもいくつか存在します。
まずは日々の取り扱いについてです。
口腔内装置は就寝中に装着するため、1日の1/3から1/4の時間は口腔内に装着していることになります。
寝ている間の口腔内は、歯周病菌や虫歯の原因菌などが多量に繁殖する時間帯です。
そのため、起床した後は口腔内装置を殺菌するため、洗浄剤の液につけておくことが必要です。
次に、下顎を前に突き出す口腔内装置を長期間装着することで、顎の関節に負荷がかかります。
タイトレーションの期間中に考慮するべきことですが、開口する時の痛み、カクカク・ジャリジャリとした雑音、などとった顎関節症の症状が出てくる、もしくは悪化することがあります。
定期的に歯科医院でレントゲン撮影をしてもらって、顎関節の変形の有無を確認してもらいましょう。
また日中はしっかり開口させることも取り入れてください。
つまり「大きなあくびをする」ことで、顎の関節の運動範囲を維持させましょう。
また、口腔内装置は上下の歯にひっかけて下顎を前に突き出します。
歯にはとても強い力がかかりますので、歯周病、歯の動揺には気をつけましょう。
マウスピースと合わせて顎関節、歯周病などのチェックも定期的に受けることをお勧めします。
マウスピースにかかる費用
歯科医院で口腔内装置を作製する際、初診時にレントゲン、歯型、かみ合わせを採取し、2回目受診時に装着します。
ここまでで窓口3割負担の方の場合、約15000円です(4976点:2023年2月現在)。
ただし、口腔内を清潔に保つ必要がありますので、歯肉の状態を確認したり、歯石除去などが別途かかることもあります(約1621点;4000円、受診回数による)。
口腔内装置を装着後、慣れてくるまでに1~2回の調整が必要です。
この費用がおよそ1800円くらいです(574点:2023年2月現在)。
それぞれ確定申告時に医療費控除の対象になります。
参考文献
- 河野正己. 【睡眠時無呼吸症候群 研究と臨床の新時代】睡眠時無呼吸症候群 口腔装置の適応と意義 THE LUNG-perspectives 2010; 18(3): 236-240.
- 津田緩子.【1からおさらい 睡眠時無呼吸症候群の治療とケア】(Theme 2)有効な治療法はあるの? 口腔内装置の使用や口腔外科領域の手術療法. 呼吸器ケア 2014; 12(11): 1132-1134.
- 中島成美ら. 睡眠時無呼吸症候群の治療法cCPAP(経鼻的持続陽圧呼吸)療法とスリープスプリント(歯科的口腔内装置)療法の効果について 加古川市民病院機構学術誌 2015; 4: 33-36.
- 西島 嗣生ら. 【睡眠時無呼吸症候群】睡眠時無呼吸症候群の治療 閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)におけるCPAP以外の治療 日本内科学会雑誌 2020; 109(6): 1082-1088.
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:睡眠時無呼吸症候群(SAS) 投稿日:2023-03-10
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