バセドウ病の症状・診断・治療

バセドウ病とは?

バセドウ病とは甲状腺機能が亢進する病気で、甲状腺ホルモンの過剰な分泌によって全身で様々な症状が出現します。

甲状腺ホルモンは代謝に関係するホルモンですが、下垂体から甲状腺刺激ホルモン(TSH)が甲状腺に働くことで分泌されます。

バセドウ病は、このTSH受容体に自己抗体(TSH受容体抗体=TRAb)が作られ、抗体が受容体と結合した状態が続くことで甲状腺ホルモンが分泌され続けるという病態になります。

自己抗体が作られる原因の詳細は分かっていませんが、バセドウ病になりやすい体質の人が何らかのウイルス感染、ストレス、妊娠・出産などを機に発症するのではないかと考えられています。

このような自己抗体ができる理由は、自己免疫機序によるものだと考えられています。(自己免疫機序とは、異物から身体を守る役割の免疫細胞が自分自身の細胞や組織を敵とみなして攻撃すること)

中でも、特定の臓器にだけ免疫応答が生じる疾患は臓器特異的自己免疫疾患と呼ばれ、バセドウ病も臓器特異的自己免疫疾患とされています。

バセドウ病は男性よりも女性がなりやすい疾患で、男女比1:3~5と言われています。男女ともに30~40歳代で最も多くなります。

甲状腺ホルモンの調節メカニズム

そもそも甲状腺とはどういう臓器なのか、簡単に説明します。

甲状腺とはのどぼとけののすぐ下にある、15~20g程の蝶が羽を広げたような形をしている臓器です。

ヨウ素を基に作られる甲状腺ホルモンというホルモンを分泌する役割があります。

甲状腺ホルモンは全身の様々な臓器に作用し、熱産生や代謝の促進、身体の成長・発育、精神機能の刺激、循環器系の調整、に関わる重要なホルモンです。

甲状腺ホルモンの分泌は脳からの指令でコントロールされていて、多すぎても少なすぎても体調に影響を与えます。

正常時では過不足なく、身体にとって丁度良い量が分泌されるように調整(フィードバック機構)されています。

甲状腺は、脳の下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)が甲状腺にあるTSH受容体と結合することで、それが刺激となり甲状腺ホルモンを分泌します。

その後甲状腺ホルモンが一定の濃度に達すると、それが脳下垂体に伝わり甲状腺刺激ホルモンの分泌が抑制されます。

このような仕組みで、ホルモンの血中濃度は一定に維持されています。

バセドウ病の症状

バセドウ病の主な症状には、

  • 特徴的な3つの症状(メルセブルグの3徴)
  • 甲状腺中毒症状

があります。

メルセブルグの3徴とは、

  • 甲状腺腫(甲状腺が全体的に軟らかく腫れる)
  • 眼球突出(大きく見開いて突出した眼)
  • 頻脈(脈拍が増える)

高齢者では臨床症状が乏しいことがあり、甲状腺腫も明らかでないことも多いので注意が必要です。

またお子さんでは、学力低下や身長促進、落ち着きのなさなどが認められることがあります。

甲状腺中毒症状

甲状腺ホルモンの過剰分泌によって引き起こされる症状を、甲状腺中毒症状と呼びます。

  • 動悸
  • 息切れ
  • 全身倦怠感
  • 収縮期高血圧(拡張期血圧は↓)
  • 食欲亢進
  • 体重減少
  • 排便回数の増加
  • 筋力低下
  • 発汗
  • 手指振戦(手の震え)

甲状腺ホルモンは全身の代謝や各臓器の働きを活発にするホルモンで、ホルモンが作用する臓器が多数あるため、それに伴い様々な症状が現れます。

甲状腺機能亢進に伴う症状は多岐にわたりますが、なぜそのような甲状腺中毒症状が現れるのかの詳しい説明は後述しますので、興味のある方は読んでみて下さい。

バセドウ眼症

バセドウ病では、特有の眼症状が認められます。

  • 上眼瞼後退
  • 眼球突出・複視
  • 眼瞼浮腫
  • 角結膜障害

などが認められます。

甲状腺中毒で交感神経が過緊張になることで、ミュラー筋と呼ばれる瞼を開閉する補助的な役割を果たしている筋肉が異常収縮してしまいます。

そして眼球の後ろの脂肪細胞や眼球を動かしている外眼筋には、TSH受容体があります。

自己受容体が結合することで炎症が起き、浮腫や脂肪組織の増大、外眼筋肥大などが生じます。

これによって眼球が飛び出てしまい、二重に見える複視が生じたり、瞼を閉じにくいことから角結膜炎になります。

限局性粘液水腫

バセドウ病では、メルセブルグの3徴、甲状腺中毒症の他にも「前脛骨粘液水腫」と呼ばれる、特徴的な皮膚病変が見られます。

前脛骨粘液水腫は、圧迫しても圧痕が残らない浮腫が、下肢の前脛~足背(足の甲)にかけて限局的に生じます。

原因はムチン(糖とタンパク質が結合してできた多糖類の一種)が皮膚に限局的に付着することで生じるとされていますが、バセドウ病との因果関係は明確になっていません。

オレンジの皮様になります。

甲状腺中毒症とバセドウ病合併症

甲状腺ホルモンの代表的な生理作用には、以下の4つがあります。

  • 基礎代謝の亢進・熱産生
  • 成長と発育
  • 精神機能の刺激
  • 心臓・血管への作用

【基礎代謝の亢進・熱産生】

甲状腺ホルモンは全身のほとんどの組織で代謝を亢進させ熱を産生したり、臓器を活発にしたりする作用があります。

甲状腺機能亢進が生じると、全身で基礎代謝率が上昇し、暑がり、発汗が見られます。基礎代謝の亢進に伴い食欲も増加しますが、食べても太らず体重は減少します。

また消化管の働きが活発になるので、軟便や下痢になります。

【精神機能の刺激】

甲状腺ホルモンは精神機能を刺激する作用があります。

甲状腺機能亢進が生じると、手が震えたり、いらいらしたり、不穏・せん妄状態になったりします。(落ち着きがなく興奮していたり、思考力が低下し、日時や場所が分からなくなったりした状態)

【心臓・血管への作用】

甲状腺ホルモンは心臓・血管への働きにも影響を及ぼします。

甲状腺機能亢進が生じると、心収縮力が増強し、心拍数を増加させる(=心拍出量の増加)のですが、それが動悸として症状に現れます。

心拍出量が増加した結果、全身を巡る血流が良くなること、活発な代謝が生じていることが合わさって、血管が開き皮膚は熱を放散させさせます。それが皮膚の熱感として症状に現れます。

※先天的な甲状腺機能低下症の場合、甲状腺ホルモンの成長と発育の作用が大きく影響しますが、バセドウ病においては影響の範囲が小さいとされています。

またバセドウ病では、緊急治療を要する甲状腺クリーゼや、バセドウ病の若年男性数%に見られる周期性四肢麻痺といった合併症もあります。

甲状腺クリーゼ

甲状腺クリーゼは、極度の甲状腺中毒症状態に強いストレス(感染・外傷・手術・ストレス・分娩など)が要因となって、複数の臓器の機能不全をきたす病態のことをいいます。

甲状腺クリーゼでは、生命の危機的状態に陥り、緊急治療を要します。

【甲状腺クリーゼの症状】

  • 中枢神経症状(不穏・せん妄・精神異常など)
  • 発熱(38℃以上)
  • 頻脈(130回/分以上)
  • 心不全症状(肺水腫、心原性ショックなど)
  • 消化器症状(嘔吐・下痢・黄疸など)

周期性四肢麻痺(脱力発作)

バセドウ病に罹患している若年男性が、糖質の摂取や飲酒、過激な運動が誘因となって発症する四肢麻痺です。

四肢の脱力発作は数時間~数日で回復し、意識障害や感覚障害は伴いません。

急激な血糖値の上昇と、それに伴うインスリンの分泌によって、血中カリウムが細胞内に移行し低カリウム血症なることで発作が起こるとされています。

バセドウ病の診断

バセドウ病の診断は、現れている症状と血液検査をもとに行われます。

必要に応じて、

  • 放射性ヨード甲状腺シンチグラフィー検査
  • 超音波検査
  • 胸部レントゲン
  • 心電図

などの検査などが行われます。

※放射性ヨード甲状腺シンチグラフィー検査とは、甲状腺ホルモンの基となるヨウ素と放射線を少量放出する薬品が一緒になったカプセルを内服し、甲状腺にどれくらいの量が取り込まれるかを測定する検査

バセドウ病の診断ガイドラインでは、以下の項目を満たすことでバセドウ病の確定診断としています。

臨床所見a)のうち1つ以上の症状があり、検査所見b)の4項目を全て満たす場合

  • a)臨床所見
    1.頻脈、体重減少、手指振戦、発汗増加等の甲状腺中毒症所見
    2.びまん性甲状腺腫大
    3.眼球突出または特有の眼症状
  • b)検査所見
    1.遊離T4、遊離T3のいずれか一方または両方高値
    2.TSH低値(0.1μU/ml以下)
    3.抗TSH受容体抗体(TRAb)陽性、または甲状腺刺激抗体(TSAb)陽性
    4.典型例では放射性ヨウ素(またはテクネシウム)甲状腺摂取率高値、シンチグラフィでびまん性にヨードの取り込みが認められる

バセドウ病の治療

バセドウ病の治療法は主に3つになります。

  1. 薬物(抗甲状腺薬)治療
  2. 放射性ヨウ素内用療法
  3. 手術療法(甲状腺摘出術)

3つの治療法にはそれぞれメリット、デメリットがあるので、病状や経過などを踏まえて主治医とよく話し合って決めることが大切になります。

※動悸や振戦といった交感神経の興奮による甲状腺中毒症状には、βブロッカーなどで対症療法を行います。

【薬物療法(抗甲状腺薬)】

  • メルカゾール(一般名:MMIチアマゾール)・チウラジール/プロパジール(一般名:PTUプロピルチオウラシル)
  • 適応:甲状腺治療の第一選択療法で、初回治療のほとんどを占める
  • メリット:ほとんどの患者で可能/外来でできる/不可逆性の機能低下症にならない
  • デメリット:寛解率が低く、治療期間が長い/副作用の頻度が高い(無顆粒球症、肝障害、ANCA関連血管炎、MMIの催奇形性)

【放射性ヨウ素内用療法】

  • アイソトープ療法
  • 適応:抗甲状腺薬が使えない患者/抗甲状腺薬で寛解しない患者/術後の再発
  • メリット:比較的効果が早い/確実性が高い/外来で治療できる
  • デメリット:甲状腺機能低下症/バセドウ病眼症の悪化/18歳以下で慎重投与で5歳未満には禁忌

【手術療法】

  • 甲状腺全摘術/亜全摘術
  • 適応:癌などの腫瘍の合併/抗甲状腺薬が使えない患者/アイソトープ療法を希望しない患者
  • メリット:効果が早い/確実性が高い/眼症によい効果/甲状腺腫が目立たなくなる
  • デメリット:甲状腺機能低下症/反回神経麻痺/副甲状腺機能低下症/手術痕が残る

薬物(抗甲状腺薬)療法とは?

甲状腺ホルモンの合成を阻害する抗甲状腺薬を内服し、甲状腺ホルモンの血中濃度を正常範囲内に抑えるようにします。

薬物療法はほとんどの患者さんに適応となるので、バセドウ病と診断されるとまず薬物療法から開始されます。

しかし、副作用の頻度も高く無顆粒球症や肝機能障害などの副作用が出現すると、投薬を中止しなければなりません。

チウラジール/プロパジール(一般名:プロピルチオウラシル)では母乳に移行しないため、授乳中の方はこちらが使われることが多いです。

薬物療法によって一時的に治癒したように見えても、再燃する可能性が高くあります。

薬物療法では長い治療期間を必要とするのですが、簡単に治療の流れを説明します。

薬物療法を始めると1ヶ月程度で効果が現れ、これまでの自覚症状や血液検査値が改善されてきます

この状態は根本的に治癒したわけではなく、薬の効果によって一時的に改善しているだけの状態です。この時期に自己判断で内服を中止すると、再び中毒症の症状が出現します。

長期間(2年間程度)内服を継続した後に、薬の量を少しずつ減量しながら中毒症状の出現や、血液検査値に変化がないかどうかを確認します。

中毒症状の出現もなく、血液検査値上も甲状腺機能が正常に維持できれば(=寛解)、内服の中止が検討されます。

内服を中止後も定期的に経過観察する必要があります。

薬物療法を2年以上継続しても効果が見られない場合は、バセドウ病が寛解する可能性は低くなるので、他の治療法を検討します。

放射性ヨウ素内用(アイソトープ)療法とは

微量の放射能をもつヨウ素を内服し甲状腺を破壊することで、過剰に行われる甲状腺ホルモンの合成を抑える方法です。

抗甲状腺薬が使えない患者さん、抗甲状腺薬で寛解しない患者さん、術後に再発した場合などが適応となります。

薬物療法に比べて効果が早く安全で確実性もありますが、甲状腺を破壊することから甲状腺機能低下症に陥ってしまうこと(甲状腺ホルモン内服で改善可能)や、バセドウ病の眼の症状が悪化する場合があります。

また放射性物質ということから、幼児や妊婦・授乳婦には禁忌、若年者には慎重投与という制限があります。

手術療法(甲状腺摘出術)とは?

甲状腺組織を3gほど残して外科的に切除し、甲状腺ホルモンの分泌を抑制させる方法です。

薬物療法で効果が得られず、放射性ヨウ素内用療法を希望されない患者さんなどの適応になります。
効果が早く確実ではありますが、入院が必要になります。

また、甲状腺とともに副甲状腺も摘出されてしまうので副甲状腺機能低下症に陥ったり、手術操作で反回神経麻痺による嗄声(声のかすれ)が生じたりするデメリットもあります。

近年では手術療法で甲状腺機能の正常かを目指すというよりも、確実に甲状腺機能を低下させ甲状腺ホルモン薬を内服し補充することで、甲状腺機能の正常化を目指す症例が増えています。

参考文献

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大澤 亮太

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大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:甲状腺疾患  投稿日:2023-03-05

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