甲状腺機能低下症の症状・診断・治療

甲状腺機能低下症とは?

甲状腺機能低下症とは、甲状腺ホルモンの作用が十分に発揮されない状態のことを言い、大部分が慢性甲状腺炎(橋本病)とされています。

甲状腺ホルモンの代表的な生理作用には、基礎代謝の亢進・熱産生、精神機能の刺激、心臓・血管への作用、成長と発育などがあります。

甲状腺機能低下症になるとこれらの作用が十分に発揮されなくなるので、

  • 代謝の低下
  • 精神活動の低下
  • 各臓器の働きの低下

が見られ、全身に多岐にわたる症状が出現します。(具体的な症状については後述)

甲状腺疾患は女性に多い特徴があり、成人~中年女性に好発します。

甲状腺機能低下症になると不妊や流産のリスクが高くなるので、妊娠を希望する場合や妊娠した場合は、甲状腺の状態を経過観察し必要に応じて治療する必要があります。

甲状腺機能低下症の2つのパターン

甲状腺機能低下症になる成り立ちには、

  1. 甲状腺から血液中に分泌されるホルモンの量が、正常時よりも少なくなる場合
  2. 甲状腺ホルモンの分泌は十分あるが、受容体に問題があり甲状腺ホルモンの作用を発揮出来ない場合

の2つのパターンがあります。

甲状腺機能低下症の原因の大部分が①甲状腺ホルモンの分泌不足によるもので、②は甲状腺ホルモン不応症という生まれつきの疾患で難病指定されています。

甲状腺ホルモン不応症では甲状腺ホルモンの合成・分泌は正常ですが、受容体に問題があり甲状腺ホルモンの作用を発揮出来ない状態になります。

身体はホルモンの作用が十分に発揮されないことを受け、甲状腺ホルモンが足りていないと認識します。

それにより正常時よりも甲状腺ホルモンの分泌量が多くなるため、甲状腺ホルモンが不足した時のような症状はあまり見られないことが多いです。

甲状腺ホルモンのフィードバック機構

少し専門的になりますが。甲状腺ホルモンの分泌量が減少する原因についてお話する前に、どのようにして甲状腺ホルモンの分泌が調整されているかについて説明させて下さい。

甲状腺ホルモンの分泌は、脳から分泌される2段階のホルモンの指令を受けてコントロールされています。(脳視床下部→脳下垂体→甲状腺)

甲状腺ホルモンのフィードバック機構について、内科専門医が詳しく説明します。

上位の内分泌腺が出すホルモンによって下位の内分泌腺が刺激され、ホルモンを分泌するという仕組みです。

その後、甲状腺ホルモンが一定の濃度に達すると、それが脳下垂体や脳視床下部に伝わり、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)や甲状腺刺激ホルモン(TSH)の分泌が抑制されます。

このような仕組みでホルモンの血中濃度は一定に維持されています(ネガティブフィードバック)

甲状腺機能低下症の原因

このような分泌調整機構があることをふまえて、甲状腺ホルモンの分泌量が減少する原因についてお話します。

甲状腺ホルモンの分泌が減少する原因には、

  1. 甲状腺自体に問題がある場合=原発性(甲状腺性)甲状腺機能低下症
  2. 甲状腺自体に問題はないが、甲状腺にホルモン分泌を指示する脳下垂体や脳視床下部に問題がある場合=二次性(下垂体性)甲状腺機能低下症・三次性(視床下部性)甲状腺機能低下症

に分類することができます。

甲状腺機能低下症になる具体的な原因疾患は以下のようになります。

【原発性(甲状腺性)甲状腺機能低下症】

  • 慢性甲状腺炎(橋本病)
  • 甲状腺ホルモン合成障害
  • ヨード欠乏・過剰
  • 薬剤性
  • 甲状腺術後・放射線療法後
  • 先天性甲状腺低形成
  • 特発性粘液水腫
  • 異所性甲状腺腫

【二次性(下垂体性)甲状腺機能低下症】

  • 下垂体腺腫
  • Sheehan(シーハン)症候群
  • 下垂体術後・放射線療法後
  • TSH単独欠損症

【三次性(視床下部性)甲状腺機能低下症】

  • 視床下部腫瘍
  • 浸潤性病変放射線療法後

ちなみに、先天性に甲状腺機能低下症を起こすクレチン症という疾患があります。

クレチン症は甲状腺発生異常(無甲状腺、低形成、異所性甲状腺など)やホルモンの合成障害などが原因となる疾患ですが、早期に治療しなければ身体や精神に発達の遅れ来す重大な疾患とされています。

そのため新生児マス・スクリーニングの対象疾患とされており、早期発見・早期治療が行われています。

甲状腺機能低下症の症状

甲状腺機能低下症の症状について話をする前に、甲状腺ホルモンの役割について簡単にお話します。

甲状腺ホルモンの代表的な生理作用には、以下の4つがあります。

  • 基礎代謝の亢進・熱産生
  • 精神機能の刺激
  • 心臓・血管への作用
  • 成長と発育

簡単に言うと、全身の様々な臓器に作用し全身の代謝や各臓器の働きを活発にします。

そのため、甲状腺機能低下症では、代謝の低下、精神活動の低下、各臓器の働きの低下が見られ、その症状は全身に多岐にわたります。

具体的な症状で言うと、

  • 全身症状:疲れやすい、動作緩慢、寒がり、発汗低下、皮膚乾燥、冷感、蒼白、体重増加
  • 精神症状:感情鈍麻、思考力低下、無気力、傾眠傾向
  • 循環器症状:徐脈、低血圧、心筋活動性低下、心拍出量低下
  • 消化器症状:食欲低下、超蠕動運動低下→便秘
  • 筋症状:筋力低下
  • 神経症状:腱反射の減弱
  • 月経:月経過多、無月経
  • 浮腫:粘液水腫
  • その他:嗄声、巨大舌、脱毛、難聴

また、甲状腺機能低下症では上記の症状以外に、
・粘液水腫
・腱反射遅延
という特徴的な症状があります。

粘液水腫

粘液水腫とは、皮膚を圧迫しても圧痕が残らないという特徴的な浮腫のことを言います。

これはタンパク質の分解も減退するので、分解されないままのタンパクに水分が貯留することで生じます。(ムコ多糖の沈着)

甲状腺機能低下症では、全身の皮膚、特にまぶた、顔面、前脛骨面に著明に見られます。

このような機序から、声帯に浮腫が生じると嗄声という声のかすれ、心臓の膜に水分が貯留すれば心タンポナーゼとなって重大な症状を引き起こします。

長期にわたり甲状腺機能低下症を患った患者さんの顔貌は、まぶた、舌、唇などの浮腫が著明で、無関心表情と呼ばれます。

腱反射の遅延

腱反射とは、アキレス腱などの腱をハンマーでなどで叩き筋に刺激を与えた時に起こる筋肉の反射のことを言います。

甲状腺機能低下症では、筋肉における電解質の代謝も低下しています。そのため筋肉の収縮や弛緩の反応が鈍くなり、腱反射の遅延として現れます。

甲状腺機能低下症の診断と分類

甲状腺機能低下症の診断は、主に現れている症状と血液検査によって行われます。

日本甲状腺学会のガイドラインでは、確定診断に下記のa)およびb)を有するものとしています。

  • a)臨床所見:上記の様な症状
  • b)検査所見:遊離T4(FT4)低値、およびTSH高値

※除外規定:甲状腺中毒症の回復期、重症疾患合併例、TSHを低下させる薬剤の服用例を除く

甲状腺機能低下症の分類

甲状腺機能低下症の診断後は、原発性、二次性(下垂体性)、三次性(視床下部性)の鑑別を行うためにTRH試験が行われます。

甲状腺機能低下症の検査データを、内科専門医が詳しく解説します。

TRH試験

TRH試験とは、最上位ホルモンであるTRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)を投与し、その後下垂体からのTSH(甲状腺刺激ホルモン)が分泌されるかどうかの反応を見る試験になります。

二次性では下垂体に障害があるので、TRH試験を行ってもTSHは上昇しませんが、三次性では下垂体からのTSHが分泌されるようになります。

甲状腺機能低下症の治療

甲状腺機能低下症の治療は、

  • 甲状腺ホルモン剤

を内服する薬物療法になります。具体的には、

  • チラージンS(一般名:レボチロキシンナトリウム)

こちらになります。

内服によって甲状腺ホルモンの量が正常に保たれれば、症状が改善されます。

甲状腺機能低下症の大部分を占める原発性の甲状腺機能低下症では、治療に当たって一過性なのか、永続性なのかを見極める必要があります。

軽度な一過性の甲状腺機能低下症の場合には治療の必要はなく、症状があって治療を行う場合でも投与量を徐々に減らし最終的に中止するという投与方法がなされます。

また甲状腺ホルモン薬の過剰投与は、骨粗しょう症や心房細動のリスクがあがるために、少しずつ用量調整していきます。

副腎機能低下症が合併している場合は、さきに副腎皮質ホルモンを投与して治療を開始しないと、急性副腎不全に陥る危険がありますので、精査が必要となります。

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大澤 亮太

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大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:甲状腺疾患  投稿日:2023-04-27

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