糖尿病は治るのか

糖尿病は初期なら治るのか?食事療法・薬物療法について解説

糖尿病は初期なら治る」という話を聞いたことがあるかもしれません。
これが本当なら、糖尿病の人には朗報ですね。
真偽のほどを知りたいはずです。
この記事では、糖尿病は治るのか、糖尿病の治療目標、食事療法、運動療法、薬について解説します。
これを読めば、初期の糖尿病が治るのかどうかが分かります。
糖尿病で治療中の方は役立ててみてください。

糖尿病は治るのか

糖尿病が治るというのはどういう状態を意味するのでしょうか?
一般的には、「糖尿病でなくなり元の状態に戻ること」を意味します。

しかし甘いものを好きなだけ食べても大丈夫になることを「治る」とするならば、「糖尿病は治らない」といわざるを得ません。
そもそも健康な人でも甘いものを食べ過ぎると血糖値は上がりますし、肥満になり、糖尿病になってもおかしくありません。
甘いものを好きなだけ食べるという食生活が間違っているわけです。

それに対して、糖尿病であっても何も症状がなく、合併症も起こらず、健康な人と同じ生活ができることをもって「治る」とするならば、「糖尿病は治る」といってよいでしょう。
そして糖尿病治療の目標は、この状態をゴールとします。

病態によっては、薬を使わなくても食事療法・運動療法だけで治ることがあります。
ただし1型糖尿病はインスリンが枯渇しているため、インスリン治療が不可欠な病気です。
この記事では2型糖尿病について解説します。
以後糖尿病と記載した場合、2型糖尿病を意味します。

糖尿病の治療目標

糖尿病の症状がなく、合併症も起こらない状態を保つには、どのようにすればよいのでしょうか?
まず血糖値、HbA1cを正常に近づけることが重要です。

血糖コントロールの目標値

HbA1cは7.0%未満を目指します。
また空腹時血糖値130mg/dL未満、食後2時間血糖値180mg/dL未満を目指します。
これが標準的な血糖コントロールの目標値です。

ただし食事療法・運動療法だけで血糖値がコントロールできる場合、または血糖降下薬を使用中でも低血糖が起こらない場合、HbA1cは6.0%未満、空腹時血糖値110mg/dL未満を目指します。

逆に低血糖を起こしやすい場合、その他の理由からコントロールが難しい場合は、HbA1c8.0%未満と目標値を高めに設定します。

血糖コントロール目標の個別化に対するアプローチ

血糖のコントロールが厳格すぎると、低血糖、突然死を起こすことがあります。
したがって年齢、糖尿病にかかってからの期間、合併症の有無などによって、HbA1cの目標値を調節します。

  • 低血糖その他の副作用の有無:リスクが高いほど寛容とする
  • 糖尿病と診断されてからの期間:長期にわたるほど寛容とする
  • 予測される余命:短いほど寛容とする
  • 重大な併存疾患:重篤なほど寛容とする
  • すでに診断された合併症:重篤なほど寛容とする
  • 患者の選択:負担が少ない治療を望むほど寛容とする
  • 治療のための支援体制:少ないほど寛容とする

糖尿病が治る食事療法

2型糖尿病では、内臓脂肪型肥満によるインスリン抵抗性がみられます。
したがって肥満を是正すれば2型糖尿病は改善するはずです。
病態によっては、特に薬を使わなくても目標となる血糖値を保てるようになります。
この場合は「糖尿病が治った」といえるでしょう。

糖尿病の食事療法では、総エネルギー摂取量の適正化が最も重要です。
これに運動療法を併用することにより、体重が減少しHbA1cも低下します。

目標体重の目安

肥満がみられる場合は、食事療法によって目標体重を目指します。
目標体重は次の数式で求めます。

[身長(m)]²×22kg

たとえば身長170cm の場合、1.7×1.7×22 = 63kgです。

エネルギー係数

日常の労作によって必要なエネルギー量が異なるため、労作別にエネルギー係数を指定します。

  • 軽い労作(大部分が座位):25~30kcal/kg
  • 普通の労作(通勤・家事・軽い労働や運動を含む):30~35kcal/kg
  • 重い労作(力仕事・活発な運動):35kcal/kg以上

総エネルギー摂取量

総エネルギー摂取量を以下の数式から求めます。

総エネルギー摂取量 = 目標体重×エネルギー係数

たとえば目標体重が63kgで軽い労作の人の場合は以下のとおりです。

63×25 = 1,575kcal

つまり1日に1,575kcalのエネルギー摂取量になるような食事をとります。
多くの肥満の人の場合、これより多くのエネルギーをとっています。
そして余分なエネルギーが体脂肪として蓄えられ、肥満を引き起こすのです。
適切な総エネルギー量の食事をとれば、徐々に体脂肪が減少して、体重も低下します。

栄養素摂取比率

食事療法においては栄養のバランスも重要です。
エネルギーの基本となる栄養素の比率は、以下のように推奨されています。

  • 炭水化物:50~60%
  • タンパク質:20%以下、20%を超えると動脈硬化が進みやすい
  • 脂質:残り分、25%を超える場合は多価不飽和脂肪酸(青魚に含まれる)を増やす

糖尿病が治る運動療法

糖尿病の治療には、有酸素運動、レジスタンス運動による運動療法が有効です。
運動は空腹時血糖、HBA1cを低下させ、肥満を改善します。

有酸素運動として、ウォーキング・ジョギング・サイクリング・スイミングなど、レジスタンス運動として、マシーントレーニング・フリーウエイトトレーニングなどがおすすめです。

最大酸素摂取量の50~70%の強度の運動を1回40~50分、週3回以上続けてください。
また座位が多い生活スタイルの場合、座位が30分を超えたら立ち上がり、軽く運動するとよいでしょう。

糖尿病が治る薬

病態によっては、食事療法・運動療法だけでは血糖値がコントロールしきれない場合があります。
この場合、経口血糖降下薬あるいはインスリンを使って血糖値を抑えなければなりません。
残念ながら、糖尿病でなくなり元に戻る薬はありません。

薬を使って血糖値をコントロールできれば、糖尿病の症状や合併症が生じない生活を送れます。
なお薬で治療する場合も、食事療法・運動療法は続ける必要があります。

糖尿病は初期なら治る?

糖尿病は初期なら何も症状はありません。
食事療法・運動療法で体重を減らし、血糖値をコントロールできれば、薬なしで健常人と同じ生活ができる場合があります。
この場合は「糖尿病が治った」といえるでしょう。

ただし病態によっては、血糖降下薬あるいはインスリンによる治療を続けることが必要です。

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カテゴリー:糖尿病  投稿日:2025-05-28

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