脂質異常症(高脂血症)とは?
脂質異常症とは、
- 悪玉コレステロール(LDL)の上昇
- 中性脂肪(TG(トリグリセリド))の上昇
- 善玉コレステロール(HDL)の低下
のどれかを満たした時に診断される病気です。
昔は高脂血症といわれていましたが、悪玉コレステロールや中性脂肪は高いことが問題ですが、善玉コレステロールは低いことが問題となります。そのため現在は、高脂血症から脂質異常症と呼ばれるようになりました。
脂質異常症は、症状自体はすぐには出てきません。しかし脂質異常症は、動脈硬化を悪化させる因子になります。動脈が固くなることで硬化症が進行すると、
- 脳梗塞
- 脳出血
- 心筋梗塞
- 狭心症
など脳や心臓に重篤な病気が起こりえます。これらの病気は予兆なく突然起きますし、起きてしまった場合は命に関わることも多い病気です。
そのため、これらの病気が起こる前に脂質異常症を治療することが大切になります。脂質異常症の治療は、
- 食事療法(カロリー・脂質を制限する)
- 運動療法(カロリー・脂質の消費量を上げる)
を行っていくことが基本となります。
そして必要な方には、薬物療法を行っていきます。お薬は、どの脂質が異常かによって異なります。ですが脂質異常症の方は、複数の数値で異常があることが多いです。
動脈硬化の直接の原因となるのは、悪玉コレステロール(LDL)が多いです。そのため複数の脂質異常がある方は、まずLDLを下げるお薬からはじめることが一般的です。
LDLを下げるお薬は、スタチン系というお薬が第一選択薬になります。このスタチン系の効果が不十分な場合、ゼチーアなど他のお薬を追加します。
一方で、LDLが正常値でTGが高い場合は、フィブラート系のお薬が選択されます。なお、フィブラート系とスタチン系のお薬を併用すると、横紋筋融解症という筋肉が溶ける副作用が出現しやすくなるといわれていたため、原則禁忌となっていました。
しかしながら欧米では併用が可能になっていることなどをうけて、2018年10月16日に厚労省より改訂の指示があり、腎機能障害がある場合は定期的な腎機能検査をすることに注意し、禁忌が解除となりました。
脂質異常症治療薬では、単独でも横紋筋融解症が出現することがあります。横紋筋融解症は、CKという筋肉中に含まれる物質が血液内で上昇していないか、採血でチェックすすることで早期に発見ができます。
脂質異常症の方は薬の効果判定と副作用チェックのために、定期的に採血をしていくことが必要になります。
脂質異常症の症状と合併症
脂質異常症は、直接的な症状はありません。
数字でしかわからないために実感できず、軽視されやすい病気です。しかし脂質異常症を放置すると動脈硬化が進行し、脳や心臓といった重要な血管が詰まってしまったり、出血してしまったりというトラブルが起こってしまいます。
具体的には、
- 脳梗塞
- 脳出血
- 心筋梗塞
- 狭心症
といった、命にかかわる合併症が起こってしまうのです。
ですから単なる数値として軽視するのではなく、数値をコントロールして予防的に治療していくことが必要になります。ですから健康診断で指摘された方は安易に考えず、まずは病院を受診することをお勧めします。
このように脂質異常症は、動脈硬化を防ぐために治療していきます。ですから他の生活習慣病も関係していて、総合的にリスクを評価して治療していきます。
※詳しく知りたい方は、『脂質異常症はどうして治療が必要?動脈硬化が引き起こす怖い病気とは?』をお読みください。
脂質異常症の検査と診断
脂質異常症の分類をみてみましょう。
これは動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年を参考に作成した表です。ただしこれらの値は、空腹時の採血結果ということに注意が必要です。空腹時とは、一般的に食後12時間後の状態をいいます。
そのためガイドラインでは、朝ごはんを食べる前の数値で診断するように記載されています。
特にトリグリセリド(中性脂肪)は、食後の影響をかなり受けるといわれています。トリグリセリドは、食事を食べてから30分ぐらいから上昇し始め、4~6時間後に最も高くなる人が多いです。およそ2倍程度になるといわれています。
食事の影響は中性脂肪だけではありません。動脈硬化の最大の要因になる悪玉コレステロール(LDL)は、採血で直接調べるのではなく、Friedewald式という計算によって算出されます。この式は、
- TC(総コレステロール)-HDL(善玉コレステロール)-TG(中性脂肪)/5=LDL(悪玉コレステロール)
となっています。
食後の影響が大きいTG(トリグリセリド=中性脂肪)の値で計算するため、LDLの値の誤差につながってしまいます。具体的にいうと、総コレステロールから他の脂質を引いた値がLDLになるため、本来の値よりも過少評価される可能性があるのです。
このように脂質異常症かどうかを正しく判断するには、空腹時の採血結果が重要になります。
※詳しく知りたい方は、『コレステロールや中性脂肪が高い!脂質異常症の診断基準とは?』をお読みください。
当院での脂質異常症の検査
当院では、
- 総コレステロール
- 中性脂肪
- HDLコレステロール
の3項目がクリニック内で迅速で測定できます。
そして上述した計算式から、
- LDLコレステロール
の値も自動で求めることができます。およそ5分程度で結果が出るため、すぐに確認できます。
朝食を抜いていただき、空腹時で採血していただくことが望ましいです。空腹時と食後の脂質の値を比較しながら、治療の必要性があるかどうか判断していきます。
脂質異常症の治療目的は、動脈硬化を進行させないためです。このため脂質異常症だけでなく、糖尿病などの生活習慣病などの評価も大切です。
特に高齢者は、自覚症状が無くても生活習慣病を合併していることがあります。さらに心臓や脳も加齢に伴い機能が低下するため、心筋梗塞や脳梗塞・脳出血のリスクが高くなります。
初回に評価する際は、項目を広めに採血をして動脈硬化をきたすような生活習慣病の評価も行っていきます。
中性脂肪高いのは、治療が必要なのか
LDLコレステロールは悪玉コレステロールといわれていることもあり、治療しなければならないという意識を持たれる方も多いです。しかしながら中性脂肪については、軽視されてしまうことが多いです。
健康診断などで脂質異常症疑いと結果が出てきた人は、朝食を食べた後の結果であることが少なくありません。そのためインターネットなどで調べて、
- 食後の値だから気にしなくて大丈夫
- トリグリセリドが高いのは当たり前
- 少し脂取りすぎちゃったかな
ぐらいに気楽に結果をみて、受け流してしまう方も多いのです。
しかし近年では、この食後の中性脂肪高値も食後高脂血症という病名がつけられ、動脈硬化につながるとして問題視されてきています。食後高脂血症の方は、中性脂肪のピークが3~4時間程度遅く出現するため、低下しづらいことが分かっています。
そのため中性脂肪が十分に下がらずに次の食事をとることで、常に中性脂肪が高い状態になるのです。この食後高脂血症の方も、動脈硬化の原因になります。
実際に非空腹時TG84mg/dLの人に比べて、TG166mg/dLと食後高脂血症の方は
- 冠動脈疾患で2.86倍
- 心筋梗塞で3.14倍
- 狭心症で2.67倍
- 突然死で3.37倍
といったほどに発症率が上昇すると報告されています。
脂質異常症の治療すべき検査結果
どれくらいの数値であれば治療が必要なのか、気になる方も多いかと思います。脂質異常症のガイドラインでは、以下のようになっています。
※一番右側のnon-HDLコレステロールは、中性脂肪が400以上の場合の悪玉コレステロールの表です。少し特殊になるため、基本的には左側のLDL(悪玉コレステロール)を参照してください。
※管理区分のカテゴリーは、リスク因子の多さによって分けられます。
まず中性脂肪はどんな方でも、150以下が目標です。したがって中性脂肪が150以上の方は、治療介入を検討していく必要があります。。
LDLが高い方は動脈硬化の大きな要因となるため、治療することが推奨されています。治療といってもお薬を必ずしも使うのではなく、運動療法や食事療法は行っていくべきです。
近年では、健康で他のリスクがない方のコレステロール管理について、もう少し許容してもよいのではという意見も出されてはいます。実際にこちらのガイドラインでも、カテゴリーⅠでお薬の治療を考慮するのは、180以上の場合となっています。
いずれにしても動脈硬化のリスクを総合的に判断して、治療を考えていくことが大切です。
リスクによる脂質異常症の治療目標の違い
患者さんごとのリスクによって、脂質異常症の治療目標とする数値が異なります。こちらに関しては、もう少し詳しいフローチャートをご紹介します。
まず最初に、冠動脈疾患に一度でも発症したかどうかです。冠動脈疾患とは、
- 心筋梗塞
- 狭心症
などの心臓の血管が詰まって起こる病気を示します。
つまりこれらの病気が起こった方は、すでに動脈硬化が進行している可能性が高いです。このためLDL100以下と、非常に低い値を目標にするように記載されています。少しでも動脈硬化の進行を予防しないと、冠動脈疾患が再発する可能性が高いからです。
冠動脈疾患がない人も油断はできません。
- 糖尿病
- 慢性腎不全
- 脳梗塞
- 末梢動脈疾患
がある人も要注意です。
これらの疾患も動脈硬化の要因、または動脈硬化が進行したことで発症した可能性が高い病気です。そのためこれらの方も、LDLを積極的に下げるように推奨されるカテゴリーⅢとなります。
なおカテゴリーⅠ・Ⅱ・Ⅲは、
- 性別
- 年齢
- 収縮期血圧
- 喫煙歴
- 総コレステロール
から冠動脈疾患による死亡確率の統計に基づいて評価されます。
なお、
- 善玉コレステロール(HDL)が40以下
- 早くに発症した冠動脈疾患の家族歴
- 耐糖能異常(糖尿病)
のいずれかが該当する場合は、カテゴリーが1段階あがります。
10年間での冠動脈疾患による死亡確率が、
- カテゴリーⅠ:0.5%未満
- カテゴリーⅡ:0.5%~2%未満
- カテゴリーⅢ:2%以上
とされています。
脂質異常症の治療方針
脂質異常症の治療は、
- 食事療法・・・食事を制限することで脂質の摂取量を減らします。
- 運動療法・・・運動によって脂質を燃焼して減らします。
この2つが大きな治療の柱として、ガイドラインでは記載されています。
この2つの治療でも脂質異常が改善しなかった場合、薬物療法を考慮するようになっています。
ですが、
- 仕事が忙しくて運動なんてする暇がない。
- 人付き合いで飲み会に行かないわけにはいかない。
- 食べるのが好きでついつい色々と食べてしまう。
と、色々な事情で取り組めないことが現実です。
医療機関を受診して、「食事療法と運動療法をまずは頑張ろう」といわれても、「言われなくてもわかっている」という気持ちになってしまうかもしれません。
そのためこれらの生活習慣での治療を念頭に置きながら、必要な方にはお薬の力も使いながら、脂質異常症の改善を行っていきます。
コレステロールの下げすぎはよくない
コレステロールの治療についてお伝えする前に、コレステロールは体に必要な成分であるということをお伝えしておきたいと思います。
LDLは、ただ下げればよいというものでもありません。コレステロールは、私たちの体にとって大切な物質です。LDLの別名は「悪玉コレステロール」になりますが、LDLは脂質を体のすみずみに配る役割があります。
コレステロールは、我々30兆の細胞の原料になります。つまりコレステロールが体内になくなるということは、我々の30兆の細胞の元がなくなるということです。さらに、ホルモンや胆汁を作る原料にもなります。そのためLDLやコレステロールは、低すぎても問題になります。
低コレステロールの定義は、
- 総コレステロール(TC)が120mg/dL未満
- LDLが50mg/dL未満
です。この値を大幅に下回ってコントロールすることは好ましくないと考えられています。
低コレステロールの症状としては、
- だるさ
- 疲れやすい
- 気持ちが落ち込みやすい
などの症状が出ることがあります。またコレステロールを下げすぎた場合、細胞を作る原料が無くなるため、むしろ脳出血が起こりやすくなるといったデータもあります。
数値を下げれば下げるほど良いわけではないため、下がりすぎている場合はお薬を調整していく必要があります。
脂質異常症(高LDL血症)の薬物治療について
先ほど示した数値を目標に、薬物療法を開始していきます。脂質異常症は運動療法や食事療法が大切ですが、短期間では効果がありません。
蓄積された脂肪が燃焼されて低下するのは時間がかかります。これは薬物療法も同様です。脂質異常症のお薬は2~3日飲めば終わりということはほとんどなく、年月を要するお薬です。
悪玉コレステロール(LDL)を下げるスタチン系のお薬には、全部で6種類のお薬があります。
その中で効果が強いのは、
- クレストール(一般名:ロスバスタチン)
- リピトール(一般名:アトルバスタチン)
- リバロ(一般名:ピタバスタチン)
となり、ストロングスタチンと呼ばれています。
これらよりも効果がやや落ちるお薬をスタンダートスタチンといい、以下の3種類があります。
- メバロチン(一般名:プラバスタチン)
- ローコール(一般名:フルバスタチン)
- リポバス(一般名:シンバスタチン)
ここでは最も多いLDL血症の治療についてお伝えしますが、他にも
- 高TG(中性脂肪)血症
- 低HDL(善玉コレステロール)血症
など、脂質異常症は様々なタイプがあります。それぞれのタイプに合わせて、適切なお薬を選択していきます。
スタチン系の薬による違い
スタチン系には6種類のお薬がありますが、それぞれの特徴があります。
ストロングスタチンのクレストールは、6種類のうちで最も新しいお薬になります。最大投与量が他のお薬よりも多く、最も効果が高いスタチン系と考えられています。
一方でクレストールは、2018年現在ではジェネリック医薬品が発売されていないため、値段が高くなります。同じストロングスタチンであるリピトールやリバロでは、ジェネリック医薬品が発売されています。
また、最も古いスタチン系のお薬はメバロチンですが、メバロチンは他のお薬が肝臓で代謝されるのに対して、唯一腎臓で代謝されるお薬です。そのため、他のお薬は肝臓の機能障害がある方は使用しづらいですが、メバロチンは肝機能障害がある人にも比較的使いやすいお薬となっています。
このように、それぞれのお薬で一長一短あります。それぞれのバランスを考えたうえで、どのお薬が患者さんにとって最適かを考えて処方していきます。
スタチン系の副作用
スタチン系のお薬では、
- 肝機能障害
- 横紋筋融解症
が副作用として多いです。これらはどちらも、採血することによって確認することができます。
お薬の治療効果を判定するためにも採血が必要になるため、脂質異常症の治療を始めた方は、3か月に一度は、脂質も含めて広く採血をする必要があります。
特に脂質異常症のお薬は、お薬の使い始めに副作用が出現することが多いです。そのため投与後3か月以内に調べて異常が無ければ、比較的安心して処方が継続できることが多いです。
スタチン系の効果が不十分な場合
もしスタチン系で効果が不十分な場合は、ゼチーアを併用することが多いです。一般にスタチンを最大まで増量すると、LDL-コレステロールを低下させる上乗せ効果は約6%と考えられています。
ゼチーアはスタチン系とは作用の仕方が異なるため、スタチン系にゼチーアを併用すると相乗効果が期待できます。
併用することで、血清LDLコレステロール値は約25%低下するという報告もあります。そのためスタチン系でも不十分な方は、ゼチーアを追加することでさらなる効果を期待します。
脂質異常症(高TG血症)の薬物治療について
中性脂肪が高い場合の治療薬としては、
- フィブラート系
- EPAやDHA(魚の脂)
のどちらかが使われることが多いです。
フィブラート系はこれまで、LDLコレステロールを低下させるスタチン系との併用が禁忌とされていました。このため、LDLコレステロールと中性脂肪の両方が高い場合は、動脈硬化に直結するLDLのコントロールを優先していました。中性脂肪を下げる効果のあるEPAのお薬などを併用していました。
スタチン系とフィブラート系の併用によって横紋筋融解症という副作用が増加する可能性が指摘されていたためですが、欧米でも併用は可能となっていることを受けて、2018年10月より原則禁忌が削除されました。
フィブラート系としては、
- ベザトール(一般名:ベサフィブラート)
- トライコア・リピディル(一般名:フェノフィブラート)
が使われていました。
2018年6月に新薬の
- パルモディア(一般名:ぺマフィブラート)
が発売となっています。
また、魚の脂のお薬としては、
- エパデール(一般名:EPA)
- ロトリガ(一般名:EPA+DHA)
が発売されています。
フィブラート系の違い
フィブラート系のお薬は、PPARα(ペルオキシソーム増殖剤応答性レセプターα)という受容体を活性化させることで効果が認められます。
この受容体が活性化されることで、LPL(リポ蛋白リパーゼ)という中性脂肪を遊離脂肪酸とグリセリンに分解する酵素です。また、血液中の遊離脂肪酸を脂肪細胞に取り込ませる働きもあります。同時にHDLコレステロールを構成するタンパク質が作られ、結果としてHDLコレステロールを増加させます。
- ベザトール(一般名:ベサフィブラート)
- トライコア・リピディル(一般名:フェノフィブラート)
- パルモディア(一般名:ぺマフィブラート)
この3つの違いをみてみましょう。
ベサフィブラートとフェノフィブラートは、どちらも同じようにPPARの活性を高めますが、サブタイプに対する作用が異なります。ベサフィブラートよりフェノフィブラートの方が中性脂肪を下げる効果は強力です。ですがベサフィブラートには、インスリン抵抗性を改善する作用が期待できます。肥満の方に向いていて、血糖コントロールにプラスに働きます。
近年発売されたぺマフィブラートはPPARの形を変えることで、従来のフィブラート系のお薬よりも選択的に中性脂肪を下げたり、HDLコレステロールを増やす遺伝子の働きを強めるお薬となっています。
このため、フェノフィブラートと同等の効果が期待できる一方で、肝臓や腎臓への負担を減らすことができるといわれています。ただし発売されたばかりで薬価が高く、従来のフィブラート系のお薬で副作用が認められる場合に使われることが予想されます。
脂質異常症の食事療法と運動療法について
脂質異常症は、どうしても患者さんの協力が必要になる治療です。特に食事と運動には注意を払わなければいけません。お薬の効果だけでは、どうしても限界があります。
食事療法は、何をどれくらい制限すればよいのか疑問に思う人もいるかもしれません。人によっては、
- 脂っぽいものだけ避けるようにしよう。
- お菓子は脂とは関係ないはず。
- 食べ物は控えてアルコールで代用しよう
など、間違った方向に行ってしまうかもしれません。
一方の運動療法も、
- 月に1回ゴルフに行ってる
- お腹の脂肪を取りたいから腹筋している
- 運動するためにダンベルを買ってきた
などは無酸素運動といい、脂質異常症の運動療法には向いていません。脂質異常症の方は、食事療法と運動療法をどうすればいいかを正しく理解しましょう。
食事療法でも運動療法でも最も大切なことは、継続することです。脂質の値が正常な人でも、脂肪という貯えがあります。脂質異常症の人はこの貯えが非常に多い人で、血中内にあふれ出てきてしまっている状態です。そのため、長い年月をかけて徐々に脂質を減らしていく必要があります。
張り切って無理な食事療法や運動療法をするのではなく、自分に合ったペースで徐々に頑張っていくイメージで行きましょう。
脂質異常症の食事療法
脂質異常症の食事療法としては、
- 適切な摂取カロリー(食事量を減らす)
- コレステロールを多く含む・上げる食品を控える
- 甘いものや炭水化物を控える
- 減塩を心がけて
- アルコールはほどほどに
の5項目に気を付ける必要があります。
コレステロールの多い食品(卵など)を控えるということが長らく言われてきましたが、コレステロールは7~8割は体内で合成されるため、アメリカに続いて日本でも、2015年には食品での上限が撤廃されています。
とはいえ脂質異常症の方は、2~3割といえどもコレステロールの多い食品は控えるに越したことはありません。
この中で最も気を付けるのがカロリーです。カロリーを摂りすぎると、余分なエネルギーは肝臓でトリグリセリドに合成されるため、血中のトリグリセリド値も高値になります。最近の研究では脂質を制限することよりも、このカロリーを制限することが重要と考えられています。
アルコールが気になる方もいるかと思います。アルコールは、少量であればHDLコレステロール(善玉コレステロール)を増加する働きがあります。ただし、アルコール自体が中性脂肪の元になります。
そのため推奨されているアルコール量は、20~25gといわれています。これは1日量として、
- 日本酒1合(180ml)
- ビールなら中ビン1本(500ml)
- ウイスキーはダブルで1杯(60ml)
- ワイングラス2杯(200ml)
- 焼酎0.5合(90ml)
となっています。
とはいえ、お酒を飲まない方が無理をすることは推奨されていません、お酒はコントロールが効かなくなる可能性があり、有益でなくなってしまうリスクの方が大きいからです。
脂質異常症の方は、数日禁酒をすればよいというものでもありません。完全に禁酒までいかなくても、節酒していくことが必要になります。
※詳しく知りたい方は、『脂質異常症の方はまず食事を制限!脂質異常症の食事療法について』をお読みください。
脂質異常症の運動療法
脂質異常症の運動療法にも目を向けてみましょう。運動には、主に2種類の運動があります。
- 有酸素持久運動
- 無酸素運動
の2つです。このうち脂質異常症の運動療法では、有酸素運動が推奨されています。
有酸素運動の例としては、以下のようなものが取り組みやすいです。
- ジョギング
- 早歩き
- 水泳
- サイクリング
次にどれくらいの時間やればよいかについてですが、厚生労働省では、「健康づくりのための運動指針2006」という指針を示しています。ただし分かりづらい点も多いかと思います。
一般的に運動の負荷がかかると、心拍数(心臓が脈打つ回数)が増えていきます。心拍数としては、1分間に110~120回がお勧めとされています。心拍数が110~120回くらいでは運動中の血圧上昇が少なく、疲労物質の蓄積も少ないといわれています。
この脈拍数110~120回の運動強度のジョギングや水泳を、最低30分(できれば60分)を週に3回以上するのが理想です。脈拍数は手首に指をあてると触れられます。1分間で自分がどれくらいの脈か数えてみると良いかもしれません。
可能であれば、一度ジムなどで脈拍を測りながら運動をしてみると、110~120回がどれくらいの負荷かが分かりやすいと思います。
※詳しく知りたい方は、『脂質異常症と診断されたら運動を!脂質異常症の運動療法について』をお読みください。
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執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:脂質異常症(高脂血症) 投稿日:2019-05-11
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