甲状腺機能亢進症の症状・診断・治療

甲状腺機能亢進症とは?

甲状腺機能亢進症とは、甲状腺から分泌されるホルモンが正常時よりも多く血中に分泌されている状態を言います。

甲状腺機能亢進症になる成り立ちには、

  • 甲状腺自体の活動が活発になり、甲状腺ホルモンを過剰に生産・分泌するタイプ=甲状腺機能亢進症
  • 甲状腺ホルモンを貯蔵していた小部屋が破壊されることで、血中に甲状腺ホルモンが流れ出すタイプ=破壊性甲状腺中毒症

この2つのタイプがあります

甲状腺機能亢進症も破壊性甲状腺中毒症も、血中に過剰に甲状腺ホルモンが分泌されているという点では、甲状腺機能亢進状態にあります。

しかし、破壊性甲状腺中毒症では、甲状腺の機能が高まっていないのにも関わらず、甲状腺機能亢進症の症状が現れているという点で、甲状腺機能亢進症と異なります。

甲状腺ホルモンの分泌調整の仕組みが何らかの原因で破綻し、甲状腺ホルモンの分泌が過剰な状態を「甲状腺機能亢進症」、分泌が低下している状態を「甲状腺機能低下症」と呼びます。

甲状腺機能亢進症の2タイプについては、具体的に以下の疾患になります

  • 甲状腺機能亢進症:バセドウ病、機能性腺腫(プランマー病)
  • 破壊性甲状腺中毒症:亜急性甲状腺炎、無痛性甲状腺炎、薬剤性など

甲状腺とは?

そもそも甲状腺とはどういう臓器なのか、簡単に説明しますね。

甲状腺は甲状腺ホルモンというホルモンを分泌する役割があります。のどぼとけのすぐ下にある、15~20g程の蝶が羽を広げたような形をしている臓器です。

濾胞(ろほう)と呼ばれる小さな小部屋が沢山集まってできていて、小部屋の壁に当たる部分(濾胞上皮細胞)でヨウ素を取り込みながら甲状腺ホルモンを造り出しています。

できた甲状腺ホルモンは小部屋の中(濾胞内)に貯蔵され、必要に応じて分泌を調整しています。

甲状腺ホルモンは全身の様々な臓器に作用し、熱産生や代謝の促進、身体の成長・発育、精神機能の刺激、循環器系の調整に関わる重要なホルモンなので、甲状腺ホルモンが過剰分泌されると全身で様々な症状が現れます。

甲状腺ホルモンの代表的な生理作用には、以下の4つがあります

  • 基礎代謝の亢進・熱産生
  • 成長と発育
  • 精神機能の刺激
  • 心臓・血管への作用

甲状腺ホルモンのフィードバック機構

少し専門的になりますが、もう少し詳しく説明します。

甲状腺ホルモンの分泌は脳からの指令でコントロールされていて、多すぎても少なすぎても体調に影響を与えます。

正常時では濾胞内の甲状腺ホルモンが過不足なく身体にとって丁度良い量が分泌されるように調整(フィードバック機構)されています。

甲状腺は、脳の下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)が、甲状腺にあるTSH受容体と結合することで、それが刺激となり甲状腺ホルモンを分泌します。

その後、甲状腺ホルモンが一定の濃度に達すると、それが脳下垂体に伝わり甲状腺刺激ホルモンの分泌が抑制されます。

このような仕組みでホルモンの血中濃度は一定に維持されています。

しかしながら、このような仕組みが何らかの原因で破綻し、甲状腺ホルモンの分泌が過剰な状態を「甲状腺機能亢進症」、分泌が低下している状態を「甲状腺機能低下症」と呼びます。

甲状腺機能亢進症の症状

甲状腺機能亢進症も破壊性甲状腺中毒症も成り立ちは異なりますが、甲状腺ホルモンが血中に過剰分泌されることで現れる症状は概ね同じ症状になり、甲状腺中毒症状と呼ばれています。

【甲状腺中毒症状】

  • 動悸
  • 息切れ
  • 全身倦怠感
  • 収縮期高血圧(拡張期血圧は↓)
  • 食欲亢進
  • 体重減少
  • 排便回数の増加
  • 筋力低下
  • 発汗
  • 手指振戦(手の震え)

甲状腺ホルモンは全身の代謝や各臓器の働きを活発にするホルモンで、ホルモンが作用する臓器が多数あるため、それに伴い様々な症状が現れます。

甲状腺機能亢進に伴う症状は多岐にわたりますが、なぜそのような甲状腺中毒症状が現れるのかの詳しい説明は後述しますので、興味のある方は読んでみて下さい。

甲状腺機能亢進症で最も頻度の多い疾患にバセドウ病があります。バセドウ病には甲状腺中毒症の他に特徴的な3徴があり、メルセブルグの3徴と呼ばれています。

【メルセブルグの3徴】

  • 甲状腺腫(甲状腺が全体的に腫れる)
  • 眼球突出(大きく見開いて突出した眼)
  • 頻脈(脈拍が増える)

    甲状腺機能亢進症の診断

    甲状腺機能亢進症の診断は、現れている症状、血液検査を基に行われます。必要に応じて、

    • 放射性ヨード甲状腺シンチグラフィー検査
    • 超音波検査
    • 胸部レントゲン
    • 心電図

    などの検査などが行われます。

    甲状腺機能亢進症を呈する疾患は主に3つあります

    • バセドウ病
    • 亜急性甲状腺炎
    • 無痛性甲状腺炎

    確定診断に用いる具体的な指標や数値は各論で述べさせてもらい、ここでは各疾患の病態、参考にする指標の意味、各指標が大まかにどうなるかを説明します。

    バセドウ病

    TSH受容体に自己抗体(TSH受容体抗体=TRAb)が作られ、抗体が受容体と結合した状態が続くことで甲状腺ホルモンが分泌され続ける病気です。

    詳しく知りたい方は、バセドウ病をお読みください。

    亜急性甲状腺炎

    何らかの原因(主にはウイルス感染)によって甲状腺が破壊され、一過性に甲状腺内に貯留されていた甲状腺ホルモンが血中に分泌され、甲状腺中毒症を呈する病気です。

    無痛性甲状腺炎

    主に橋本病を基礎とした自己免疫性機序により甲状腺が破壊され、一過性に甲状腺内に貯留されていた甲状腺ホルモンが血中に分泌され、甲状腺中毒症を呈する病気です。

    甲状腺機能亢進症の見分けるポイント

    甲状腺機能亢進症の見分け方のポイントを医師が詳しく解説します。

    甲状腺機能亢進症の診断には、以下の指標を用いて行います。

    • 【血中TSH値】

    脳の下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)。

    甲状腺ホルモンの分泌が過剰になると血中TSH値は低くなり、甲状腺ホルモンの分泌が少ない時には血中TSH値は高くなります

    • 【血中FT3・FT4値】

    甲状腺ホルモンはT3、T4と表され、FT3・FT4は血中に遊離している甲状腺ホルモンのことを言います。

    遊離型のみが細胞内に入ることができ、ホルモンとして細胞内で活性を示します。

    甲状腺ホルモンの検査では主に遊離型T3・T4(FT3・FT4)を直接測定します。」

    • 【123I摂取率】

    甲状腺ホルモンはヨウ素(I)を取り込みながら合成されます。

    123Iの接種率が上昇している場合は、甲状腺内で甲状腺ホルモンの合成が活発に行われていることを意味します。

    • 【TSH受容体抗体】

    甲状腺は、脳の下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)が、甲状腺にあるTSH受容体と結合することで、それが刺激となり甲状腺ホルモンを分泌します。

    バセドウ病では、このTSH受容体に対する自己抗体(TSH受容体抗体=TRAb)が認められます

    • 【赤沈亢進・CRP値】

    血液検査による赤沈やCRP値などは、体内での炎症の有無や程度を判断する指標になります。

    亜急性甲状腺炎と無痛性甲状腺炎の鑑別時に指標とします。

    甲状腺機能亢進症の治療法

    甲状腺機能亢進症を呈する疾患は主に3つ。

    • バセドウ病
    • 亜急性甲状腺炎
    • 無痛性甲状腺炎

    簡単に、各疾患の治療法について説明したいと思います。

    治療の詳細が知りたい方は、各疾患のページをご覧ください。

    バセドウ病の治療

    バセドウ病の治療法は、主に以下の3つになります

    1. 薬物療法(抗甲状腺薬)
    2. 放射性ヨウ素内用療法
    3. 手術療法(甲状腺摘出術)

    【①薬物療法(抗甲状腺薬)】

    • メルカゾール(一般名:チアマゾール)
    • チウラジール/プロパジール(一般名:プロピルチオウラシル)

    バセドウ病治療の第一選択療法で、初回治療のほとんどを占めます。

    外来でできるので手軽で、不可逆的な機能低下症になりません。

    副作用の頻度が高く、無顆粒球症や肝機能障害などの副作用が出現すると、投薬できなくなります。

    長期間(約2年間)服用する必要がありますが、その後再燃する可能性が高いです。

    【②放射性ヨウ素内用療法】

    • 微量の放射能をもつヨウ素を内服し甲状腺を破壊することで、過剰に行われる甲状腺ホルモンの合成を抑える方法

    抗甲状腺薬が使えない患者、抗甲状腺薬で寛解しない患者、術後の再発患者に行います。

    甲状腺を破壊することから不可逆的な甲状腺機能低下症に陥ってしまうことや、バセドウ病の眼の症状が悪化する場合があります。

    幼児や妊婦・授乳婦には禁忌、若年者には慎重投与という制限があります。

    【③手術療法(甲状腺摘出術)】

    • 甲状腺組織を外科的に切除し、甲状腺ホルモンの分泌を抑制させる方法

    薬物療法で効果が得られない患者、放射性ヨウ素内用療法を希望されない患者が適応となります。

    甲状腺とともに副甲状腺も摘出されるので副甲状腺機能低下症に陥ったり、手術操作で反回神経麻痺による嗄声(声のかすれ)が生じたりする可能性があります。

    亜急性甲状腺炎の治療法

    亜急性甲状腺炎は無治療でも数週~数か月の経過で自然治癒します。

    軽症例では非ステロイド性抗炎症薬、炎症所見が強いときは副腎皮質ステロイド薬を内服します。

    動悸や振戦といった交感神経の興奮による甲状腺中毒症状には、βブロッカーなどで対症療法を行う場合もあります。

    無痛性甲状腺炎の治療法

    多くは3ヶ月以内に自然回復するので、基本的には経過観察をします。

    動悸や振戦といった交感神経の興奮による甲状腺中毒症状には、βブロッカーなどで対症療法を行う場合もあります。

    参考文献

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    大澤 亮太

    執筆者紹介

    大澤 亮太

    医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

    日本精神神経学会

    精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

    カテゴリー:甲状腺疾患  投稿日:2023-03-10

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